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2014年06月10日

【韓国昔話36】少年と母親

【韓国昔話36】少年と母親

昔、昔、父母が老いると山に捨てなければならない悪い風習があったころの話です。

ある村に住んでいた少年も、老いた母親を山に捨てなければならなくなりました。

少年は、母親を背負って山に登っていきました。そして、まわりに誰もいないことを確認すると、小さな洞くつの中に母親を座らせて言いました。

「お母さん、私が毎日来ますからね」

少年は、とめどなく流れる涙をそででぬぐいました。すると、母親が

「私は大丈夫だから、日が暮れる前に早く家に帰りなさい」

と言って、少年の肩を軽くたたいてあげました。

その日から、少年は、一日も欠かさず、食べ物を持って母親のいる洞くつに通いました。

そんなある日、少年が市場に行くと、人々が集まってがやがやと何かを話していました。

少年は、その中の一人のおじさんにたずねました。

「おじさん、何があったのですか」

すると、そのおじさんは、「わが国に中国から使臣が来て、三つの難しい問題を出したそうだ。その問題を解けなければ絹織物や穀物を差し出さなければならないそうだ」

と答えてくれました。

その日の夜、少年は、食べ物を持って、母親のいる洞くつに訪ねていきました。

母親は、いつもと違う少年の顔を見て言いました。

「何をそんなに考え込んでいるの? いったい何があったの?」

少年は、母親に、市場で聞いた話を話してあげました。

「わが国に中国から使臣が来て、三つの難しい問題を出したそうです。一つ目の問題は、くねくねと曲がった穴のあいた玉に糸を通すにはどうすればよいか。

二つ目の問題は、太さがまったく同じ一本の丸太の、上の部分と下の部分を見分けるにはどうすればよいか。

三つ目の問題は、見た目がまったく同じ二頭の雌牛のうち、どちらが母牛で、どちらが子牛であるかを見分けるにはどうすればよいかという問題です」

すると、母親は、にっこり笑って、三つの問題を、一つひとつていねいに解いてくれました。

翌日、少年は朝早く、王様のいる宮殿に行き、王様へのお目通りを願いました。

それまで問題を解ける人が誰も現れなかったので、王様は、すぐに少年と会うことにしました。そして、

「おまえを信じるので、三つの問題を必ず解いてみなさい」

と言って、少年の手をぎゅっと握りしめました。

まもなく、中国の使臣たちが入ってきました。

少年は言いました。

「一つ目の問題から解いてみます。

まず、アリの腰に糸を結びます。そして、玉の一方にミツをぬり、その反対側にアリを置きます。

そうすれば、アリは、甘いミツのにおいをかいで、玉の穴に入っていき、反対側から出てきます。このようにすれば、くねくねと曲がった玉の穴に糸を通すことができます」

「次に、二つ目の問題を解いてみます。

太さが全く同じ丸太でも、水に浮かべれば、上のほうは浮き、下のほうは沈むので、どちらが上でどちらが下か、すぐに見分けることができます」

「最後に、三つ目の問題を解いてみます。

見た目がまったく同じ二頭の牛の前にえさを置いて、最初に食べる牛が子牛であり、あとから食べる牛が母牛です。

なぜなら、子を思う母親の心は、人も動物も、みな同じだからです」

少年が問題をすらすらと解くと、中国の使臣たちは何も言えず、こっそり部屋から出ていってしまいました。

王様は、顔中に満面の笑みを浮かべて、少年にやさしい声で言いました。

「わが国の心配の種を取り除いてくれたので、おまえにほうびをあげよう。おまえの願いは何だ?」

すると、少年は、王様にひざまずいて言いました。

「王様、実は、三つの問題を解いたのは、私ではなく、私の母です。私の願いは、たった一つです。それは、年老いた母と一緒に暮らすことです。しかし、国の法がきびしくて‥‥。」

少年は、最後まで言うことができずにしゃくりあげました。

「おまえの母親は、本当に知恵深い母親だ。そして、おまえは本当に親孝行な息子だ。私がおまえの願いをかなえてあげよう」

このようにして、少年は、年老いた母親と一緒に暮らすことができるようになりました。

それからは、父母が老いても、人々は父母と一緒に暮らすことができるようになったそうです。

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