【韓国昔話37】人になった野ねずみ
昔、昔、山寺に入って勉強しているお金持ちの家の坊ちゃんがいました。
坊ちゃんは、家に帰りたい心をぐっとおさえ、もう三年も山寺で勉強していました。
そのようなある日、お父さんから、「おばあさんの具合が悪い」という手紙が坊ちゃんのもとに送られてきました。
坊ちゃんは、その手紙を机の上においたまま、急いで家に帰りました。
家に到着し、門を開けて中に入った坊ちゃんは、家の中を見てびっくり仰天してしまいました。
なぜなら、そこには、自分と全く同じ姿をした坊ちゃんが、お父さんとお母さんと一緒にいたからです。
「私はこの家の息子だが、おまえはいったい誰だ?」
坊ちゃんがそう叫ぶと、全く同じ姿をした、もう一人の坊ちゃんが、
「私がこの家の本当の息子だ。そう言うおまえは誰だ?」
と言い返しました。
二人の坊ちゃんは、互いにゆずらず、自分が本当の息子だと言い張りました。
この様子を見ていた坊ちゃんのお父さんとお母さんは、どうすればよいか分からず、とまどってしまいました。
口もとにあるホクロを見ても、手にできたイボを見ても、何もかもがまったく同じだったからです。
「そうだ! それなら、私が送った手紙を見せてみなさい」
お父さんが、二人の息子に言いました。
すると、にせものの坊ちゃんが、お父さんのよこした手紙を取り出したではありませんか!
「分かった! おまえがにせものだな。早くこの家から出ていけ!」
結局、ほんものの坊ちゃんが家から追い出されてしまいました。
山寺に戻ってきた坊ちゃんは、お坊さんにそれまでの出来事をすべて話しました。すると、お坊さんが言いました。
「つめを切ったら、それをやたらに捨ててはいけないと言ったではないか! おそらく、おまえのつめを食べた野ねずみが、おまえに化けたのだ」
「野ねずみですって?」
坊ちゃんは、目を丸くして聞きかえしました。
「そうだ。手のつめには、人の精気がやどっていて、動物がそれを食べて人の姿に変わることもあるのだ」
「それでは、いったいどうすればよろしいのでしょうか」
「今すぐ、蔵で飼っているネコを連れていきなさい!」
お坊さんは、ネコを連れていってどのようにすればよいか、坊ちゃんにくわしく話してあげました。
翌日、坊ちゃんは、ネコをふところの中にかくして家に帰りました。
ほんものの坊ちゃんを見た、にせものの坊ちゃんが言いました。
「なんだ、にせものがまた来たな。早くこの家から出ていけ!」
すると、ほんものの坊ちゃんは、ふところの中にかくしておいたネコを、にせものの坊ちゃんに向かって思いきり投げつけました。
ネコは、体をかろやかにまわして飛んでいき、にせものの坊ちゃんの首にがぶりとかみつきました。
「うわ!」
にせものの坊ちゃんは、悲鳴をあげてその場にたおれました。
悲鳴を聞いて部屋から出てきたお父さんとお母さんは、驚いて顔がまっさおになりました。
今まで、息子だとばかり思っていた、にせものの坊ちゃんの体がしだいに野ねずみの姿に変わっていったからです。
「お父さん! お母さん!」
ほんものの坊ちゃんが叫ぶと、父親と母親は、坊ちゃんに駆け寄って、力いっぱい坊ちゃんをだきしめました。
「あやうく、本当の息子をうしなってしまうところだった!」
お父さんとお母さんと坊ちゃんは、ネコにかまれて死んだ野ねずみを見ながら、ほーっと安堵のため息をつきました。
その後、坊ちゃんは、切ったつめをやたらに捨てないようにしたそうです。
終