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2014年06月04日

【韓国昔話34】言葉を話す石亀

【韓国昔話34】言葉を話す石亀

ある村に、意地悪で欲張りな兄と、心やさしく行いの正しい弟が住んでいました。

ある日、弟が山で薪を取っている時でした。どこからか、栗が一つ、ころころと転がってきました。

「おやっ、栗だ! お母さんに持っていってあげよう」

弟は、栗をひろいながらつぶやきました。そのときでした。

「おやっ、栗だ! お母さんに持っていってあげよう」

誰かが、弟の言葉をまねて言いました。

弟は、あたりをきょろきょろと見まわしました。しかし、いくら見まわしても、人っ子一人いませんでした。

すると、また栗が一つ、ころころと転がってきました。弟は、その栗をひろいながら、

「これは、妻にあげよう」

と言いました。すると、また、

「これは、妻にあげよう」と言う声がしました。

弟は、声のするほうに行ってみました。すると、茂みの中から、一匹の石亀がのそのそとはいだしてきました。

「おまえが言ったのか?」

弟が聞くと、

「おまえが言ったのか?」

その石亀は、弟の言葉をそのまま繰り返して言いました。弟は、不思議に思い、この石亀を抱いて市場に行きました。

弟は、市場の真ん中に立って大声で叫びました。

「言葉を話す石亀ですよ! 一度、聞いてみてください!」

弟が声を張り上げると、人々が集まってきました。

「石亀が言葉を話すだって? そんなばかなことがあるか」

「うそではありませんよ、さあ見ていてください」

弟は、石亀をなでながら言いました。

「これは、お母さんに持っていってあげよう」

すると、亀も、弟の言葉をそのまままねて

「これは、お母さんに持っていってあげよう」

と言いました。

「本当に亀が言葉を話している!」

人々は、感心してお金を農夫にあげました。

そのうわさを聞いて、欲張りな兄が弟の所にやってきました。

「その石亀を、数日、おれに貸してくれ」

兄は、石亀を奪い取って言いました。

「どうぞ、持っていってください」

弟は、素直に石亀を貸してあげました。

兄も、弟と同じように、石亀を市場に持っていきました。

「言葉を話す石亀ですよ! 一度聞いてみてください!」

兄が大声を張り上げると、人々がぞろぞろと集まってきました。兄は、石亀に話し掛けました。

「これは、お母さんに持っていってあげよう」

しかし、石亀は兄の言葉をまねず、黙っていました。兄は、うろたえて、もう一度言いました。

「これは、妻にあげよう」

しかし、石亀は、黙ったまま何も言いませんでした。兄が、石亀をこつこつたたいても、石亀はじっとしたまま何も言いませんでした。

「このうそつきめ!」

「おおぼらふきではないか!」

人々は、口々に悪口を言って、その場から去っていきました。腹を立てた兄は、石亀をたたき殺してしまいました。

石亀が死んだという知らせを聞いて、すぐに弟が走ってきました。

「私のせいで、おまえが死んだのだなあ」

弟は、涙を流しながら、石亀を庭に埋めてお墓をつくってあげました。

すると、ある日、その石亀のお墓から青い芽が出てきました。

芽はすくすくと育ち、すぐに大きな木になりました。そして、その木には、人のこぶしほどの実が鈴なりになりました。

弟は、その実を取って皮をむいてみました。すると、なんと、実の中から黄金が出てきました。

弟は、たちまち大金持ちになりました。

そのうわさを聞いた欲張りな兄は、弟がうらやましくてたまらなくなりました。

それで、こっそり石亀のお墓を掘って骨を持ってきて、自分の家の庭に埋めました。すると、その場所からも芽が出てきました。

芽は、すくすくと育ち、すぐに大きな木になりました。そして、その木にも、人のこぶしほどの実が鈴なりになりました。

兄は、すぐに実を取って皮をむいてみました。

すると、なんということでしょう。その実から、どんどんと泥や肥やしが出てくるではありませんか。

兄がびっくりして腰を抜かしていると、ほかの実も割れて、そこからも、どんどんと泥や肥やしが出てきました。

そればかりではありません。木の枝からも、幹からも、どんどんと泥や肥やしが出てきたのです。

それは、あっという間に、兄も、兄の家も、すべて飲み込んでしまったそうです。

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