【韓国昔話30】家族が仲良くなる秘訣
昔、ある村に、李さんの家族と金さんの家族が住んでいました。
李さんの家族と金さんの家族は、家族の人数も同じであり、人から田んぼを借りて米をつくっていることも同じであり、牛一頭に豚一匹を飼っていることも同じで、ほんとうに似ているところがたくさんありました。
しかし、たった一つ、違う点がありました。それは家族の仲の良さでした。
李さんの家では、つねに笑い声がたえなかったのですが、金さんの家では、毎日のように、しおり戸の外まで家族同士でいいあらそう声が聞こえてきたのです。
ある日、金さんの家の牛が小屋から抜けだして、村の田畑をふみあらしました。
村の人々は、おこって金さんの家に押しかけてきました。
「人の家の田畑をだめにして、どうするつもりですか!」
「どうして、しっかり牛の手綱をつないでおかないのですか!」
このように村の人々にせめられて、金さんはひたすら謝りつづけました。
村の人々が帰っていくと、金さんは、大声で妻を呼び、どなりつけました。
「おまえは、朝、牛にまぐさをやったのか。おなかが空きすぎて、牛が手綱をほどいて飛び出していったではないか!」
このように言われた妻は、縁側に座っていた息子に近づいていき、かんだかい声でしかりつけました。
「おまえはぶらぶら遊んでばかりいて、牛が抜け出していくのも見なかったのか! どうしておまえはいつもそうなの!」
すると、息子が今にも泣き出しそうな顔で、金さんに向かってさけびました。
「お父さんが牛の手綱をしっかり結んでおけば、こんなことは起こらなかったではないですか!」
「なんだと? こいつ、父親に食ってかかるとは何事だ!」
金さんは大またで歩いていって息子を立たせ、力まかせにお尻をたたきました。息子は、わっと泣き出しました。
「まあ、なぜ子供をたたくのですか!」
妻が大声で叫びました。すると、金さんは息子をたたいていた手をとめ、大声で言い返しました。
「礼儀をわきまえないやつは直すのがあたりまえだろう、そのままほうっておけというのか!」
「だれがほうっておけと言いましたか!」
妻も負けずに声を張り上げました。金さんの家のけんかは、やむ気配がありませんでした。
そこに、隣に住んでいた李さんが来て、間に入ってけんかをとめました。
李さんは、金さんを連れて村の居酒屋に行きました。金さんは、李さんにため息をついて言いました。
「どうして、うちは毎日けんかばかりするのだろう。君の家のように、仲良く暮らせる秘訣があれば、少し教えてくれないか」
すると、李さんは、にっこり笑って、次のような話をしてくれました。
「実は、ひと月ほど前、わが家の牛も、小屋から抜けだして、村の田畑をふみあらしたことがあったのだよ。それで、村の人々が、おこって私の家に押しかけてきたんだ。
『人の家の田畑をだめにして、どうするつもりですか!』
『どうして、しっかり牛の手綱をつないでおかないのですか!』
このように村の人々にせめられて、私はひたすら謝りつづけたのだよ。村の人々が帰っていくと、私の妻が歩み寄ってきて、とてもすまなさそうにこのように言ったんだ。
『あなた、本当にすみません。私が朝、少ししかまぐさをあげなかったので、牛のおなかが空いていたようです。牛が抜け出していったのは、私の責任です』
すると、隣にいた息子がこのように言ったんだ。
『違います、お母さん。小屋の近くにいた私が、牛が逃げていくのをとめなければなりませんでした。遊ぶことに夢中になっていた私の責任です』
妻と息子の話を聞いて、私はこのように言ったのさ。
『私が手綱をしっかり結んでおけば、牛が手綱をほどくことはなかった。だから、私の責任がいちばん大きいのだよ』
すると、妻が『ほほほ』と笑い、その笑い声に息子が『ははは』と笑い、私も『ははは』と笑ったんだ。
どうだね。もう、わが家がなごやかな秘訣が分かったかね」
金さんは、お互いに自分が責任を持とうとする李さんの家族から大切なことを学ぶことができました。
そして、すぐに自分からそのようにしてみようと心に決めて家に帰っていきました。その日から、金さんの家にも、少しずつ笑いの花が咲きはじめたそうです。
終