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2014年05月25日

【韓国昔話31】牛よりまぬけな大臣の息子

【韓国昔話31】牛よりまぬけな大臣の息子

昔、まぬけな息子をもった大臣がいました。

大臣は、息子が自分の名前も書けないことを恥ずかしく思っていました。それで、書堂※の先生を迎えて、息子に読み書きの勉強を教えさせました。

先生は、熱心に勉強を教えました。ところが、いくら教えても、大臣の息子は文字一つ覚えませんでした。

書堂の先生は、あまりにもどかしくて、ひとり言をつぶやきました。

「おまえに教えるよりは、いっそ牛に教えたほうがいい」

その言葉を聞いた大臣の息子は、父親の所にタタタッとかけていって言いました。

「先生は、私より牛に教えたほうがいいそうです」

息子の言葉に腹を立てた大臣は、すぐに書堂の先生を呼びつけました。

「おまえは、無礼にも、大臣の息子をけなしたのか!」

大臣は、怒鳴りつけるように言いました。

「わたくしが、どうしてお坊ちゃんをけなすことができますか」

「何を言うか。おまえは、いっそ牛に教えたほうがいいと言ったではないか!」

「それは、いくら教えても、お坊ちゃんが文字一つ覚えないので、わたくしがひとり言でつぶやいたことです。どうして、それをけなしたと言うことができますか」

事のいきさつが分かったからといって、大臣は、書堂の先生をそのままにしておくことはできませんでした。

そうでなくても、召使たちが、息子を「ばか」とか「まぬけ」とささやいているところだったからです。

それで、大臣は、書堂の先生をこらしめて、召使たちの見せしめにしようと思って言いました。

「牛のほうが優れていることを証明してみせれば、けなしたとは言えないだろう。おまえは、それを証明してみせることができるか」

「どのようにせよとおっしゃるのですか」

「きょうから、牛に文字を教えよ。もし、十日以内で牛が文字を覚えれば、おまえを許そう。しかし、覚えられなければ、おまえに大きな罰を下そう」

そう言って、大臣は、召使に一頭の牛を連れてこさせ、書堂の先生にわたしました。

その日から、書堂の先生は、牛に文字を教えはじめました。

まず、牛の手綱をしっかり握りしめ、「天」と言って、腕をぐいっと持ち上げました。すると、牛はびっくりして、頭をぱっと持ち上げました。いきなり手綱を引っ張られたので、鼻がとても痛かったからです。

書堂の先生は、さらに「地」と言いながら、握った手綱を下にぐいっと下ろしました。今度も牛はびっくりして、頭をぐっと下に下げました。

書堂の先生は、毎日、何十回、何百回と、この訓練を繰り返しました。

すると、どうでしょう。

いつのまにか、牛は、「天」という声を聞いただけで、頭をぱっとあげ、また、「地」という声がすると、頭をぐっと下げるようになったのです。

約束した十日がたちました。

大臣は、召使たちを集め、庭にずらっと並ばせました。そして、自分は、広間の高い場所に座りました。

そこに、書堂の先生が、牛を引っ張ってやってきて、庭の真ん中に立ちました。

「どうだ、この十日間で、牛は文字を覚えたか」

大臣は、薄笑いを浮かべながら聞きました。

「ごらんください」

書堂の先生は、牛から離れて立ちました。そして、牛に向かって大きな声で叫びました。

「天!」

目をぱちくりさせて立っていた牛は、突然、頭をぱっと挙げました。

「わあ!」

召使たちが、歓声をあげました。

「地!」

再び、書堂の先生が叫ぶと、今度は、牛は、頭を下にぐっと下げました。

「わあ!」

召使たちが、また歓声をあげました。

「どうですか、これでも、『牛に教えたほうがいい』と言った私の言葉は間違っていましたか」

書堂の先生の言葉に、召使たちは腹をかかえて笑いました。

大臣は何も言えず、こっそり、その場からいなくなってしまったそうです。

※書堂‥‥子供たちに漢文を教える学習塾。日本の寺子屋のようなもの。

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