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2014年03月24日

【韓国昔話13】仙女ときこり

【韓国昔話13】仙女ときこり

 昔、昔、金剛山の山あいに、一人のきこりが年老いた母親の世話をして暮らしていました。

 

 きこりは、たきぎを取って市場で売りながら貧しく暮らしていました。

 ある日、きこりが山の中でたきぎを取っていると、一匹の鹿が駆けてきました。

 「きこりさん、私をかくまってください。猟師に追われているのです」

 「それは大変だ! 早くこのたきぎの中にかくれなさい」

 きこりは、鹿をたきぎの中に入れてあげると、何ごともなかったように、口笛をふきながら再びたきぎを取りはじめました。

 すぐに、矢を持った猟師が、はあはあと息を切らしながらかけてきました。

 「もしもし、もしや、鹿がここを通り過ぎませんでしたか」

 「それなら、たった今、あちらのほうにかけていきましたよ」

 きこりは、金剛山のいちばんけわしい山のふもとを指さして言いました。

 その瞬間、猟師はこまったような表情を浮かべましたが、すぐにきこりが指さしたほうに走っていきました。

 きこりは、猟師の姿が見えなくなると、小さな声で言いました。

 「鹿よ、もう出てきてもだいじょうぶだ」

 きこりの声を聞いて、鹿は、たきぎの中から出てきました。

 「ありがとうございます。私の命を救ってくださったので、きこりさんの願いを一つ聞いてさしあげます」

 「いいんだ。気にする必要はない」

 きこりはにっこり笑いながら、早く行くようにと手でうながしました。

 すると、鹿が言いました。

 「この山の谷間に行けば、美しい池があります。今晩、満月が昇れば、仙女たちが天からおりてきて、その池で水浴びをするので、仙女が脱ぎ捨てたはごろもを隠してください。そうすれば、天にのぼっていけない仙女が、きこりさんと一緒に暮らすようになるでしょう」

 きこりは、とても不思議な話に目を丸くしました。

 鹿は、続けて言いました。

 「ところで、たった一つ、必ず守らなければならないことがあります。どんなことがあっても、子供を三人生むまでは、仙女にはごろもを返してはいけません。そのことを絶対に忘れないでください」。

 そう言うと、鹿は、どこかに行ってしまいました。

 その日の晩、きこりは、山の谷間にある池に行って、大きな岩の後ろに隠れました。

 やがて、こうこうとした満月が昇ると、仙女たちが一人、二人と天からおりてきました。白いはごろもが、月の光を受けて、とても美しく輝きました。

 仙女たちは、はごろもを脱いで岩の上に置き、池の中に入っていきました。

 きこりは、鹿が言ったように、そろりそろりと歩いていき、一枚のはごろもを素早くひろってふところの奥深くに隠しました。

 仙女たちは、足をばたつかせて歌を歌いながら、楽しい時間を過ごしました。

 やがて、月が傾くと、仙女たちは池の外に出てきて、はごろもをまといました。

 「まあ、私のはごろもがなくなってしまった。はごろもがなければ、天に戻れません」

 一人の仙女が、今にも泣き出しそうな顔をして言いました。

 ほかの仙女たちも、あちらこちらを見回しながら、なくなったはごろもを探しました。しかし、もはやこれ以上、時間の遅れは許されず、みな、急いで天に上がっていってしまいました。

 一人残された仙女は、どうすればよいか分からず、しくしくと泣きつづけました。

 「もしもし、服をなくされたのですか」

 きこりが仙女の前に現れ、自分の上着を仙女にわたしてあげました。

 天にのぼっていけなくなった仙女は、きこりがくれた上着をかけ、しかたなくやさしいきこりのあとについていき、一緒に暮らすようになりました。

 その後、その美しい仙女はきこりの妻になり、年老いた母親の世話をして暮らしました。

 美しい仙女を妻に迎えたきこりは、さらに仕事に精を出し、一生懸命に働きました。仙女は、きこりの愛をたっぷり受け、幸せに暮らしました。

 いつしか月日は流れ、仙女は、二人のかわいらしい子供をもうけました。

 そのようなある日のことです。その日は、とても月の明るい夜でした。仙女は、夜空を見上げながらためいきをついて涙を浮かべました。

 「天にいらっしゃる父母様も随分お年を召されたことでしょう」

 その様子を見ていたきこりは、とても胸が痛みました。

 「もう随分時がたったので、本当のことを話しても大丈夫だろう」

 こう思ったきこりは、自分がはごろもを隠して仙女と結婚したことを話してあげました。

 すると、仙女が言いました。

 「一度だけでいいので、そのはごろもを見せてください」

 きこりは、隠しておいたはごろもを取り出し、仙女の手にのせてあげました。仙女は感激のあまり、はごろもに顔をうずめたまま涙を流しました。

 しばらくして仙女は、はごろもをまとったかと思うと、二人の幼い子供を両腕に抱えて、天に舞い上がっていってしまいました。

 「あっ! 私を置いていかないでくれ」

 きこりは、ぴょんぴょんとはねましたが、どうすることもできませんでした。きこりは、地べたに座り込んで胸をたたいて泣きました。

 きこりは、鹿の言葉を思い出しました。

 「そうか。子供を三人生むまでは、はごろもを返してはいけないと言ったのは、子供が三人いれば、一度に抱えることができないからだったのか! それなのに、なぜ鹿の言うとおりにしないで、はごろもを渡してしまったのだろう」

 きこりは、考えれば考えるほど後悔するばかりでした。

 その日から、きこりは、仙女と子供のことばかり考えては涙をこぼしました。

 そのようにして数日が過ぎた時です。

 きこりは、もう一度鹿に会わなければならないと思い、昔、鹿と出会った場所に行ってみました。

 

 きこりが来ることをあらかじめ知っていたかのように、鹿は、すでにその場所に来ていました。

 鹿は、やせこけたきこりの姿を見て言いました。

 「仙女のいる天の国に上がっていける方法がたった一つあります。仙女がはごろもをなくした出来事があってから、天の国では、大きなつるべで池の水をくみあげているそうです。ですから、満月の晩に天からつるべがおりてくれば、すばやくその中に入ってください」

 鹿は、そう言い終えるやいなや、どこかに行ってしまいました。

 明るい満月の晩、鹿が言ったとおり、本当に天から大きなつるべがゆっくりおりてきました。きこりは、すばやくそのつるべの中に入りました。

 すると、つるべは、再び、ゆっくりと天に上がっていきました。天に上がっていったきこりは、仙女と子供たちと出会い、幸せな日々を送りました。

 しかし、きこりは、地上に残してきた母のことを思うと、心から喜ぶことができませんでした。

 「ああ、一人で暮らしている年老いた母が心配だ」

 きこりのひとり言を聞いた仙女が言いました。

 「天の国の馬に乗って、お母様のもとに行って来てください。しかし、絶対に馬から降りてはいけません」

 きこりは、天の国の馬に乗って地上に下りていき、家の前で母を呼びました。

 家から出てきた母は、きこりの姿を見て、目をまんまるにして喜び、きこりのもとに駆け寄り、馬に乗っているきこりの足にしがみつきました。

 ところが、あまりに強くしがみついたので、そのひょうしに、きこりはあぶみを踏み外し、馬からころんと転げ落ちてしまいました。

 おどろいた馬は、きこりを置いたまま、後ろも振り返らずに飛んでいってしまいました。その後、仙女と子供たちを思いながら、きこりはだれとも結婚せずに暮らしました。

 何十年かのち、きこりは死んで、おんどりになりました。

 それで、今でもおんどりは、屋根の上に上がり、空に向かって悲しそうに鳴くのだそうです。

 

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