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2014年01月21日

【韓国昔話4】鬼に出くわしても、心を強く持てば

【韓国昔話4】鬼に出くわしても、心を強く持てば

昔、昔、ある村に、親孝行な兄弟が住んでいました。 兄弟の父親は、とても珍しい病気にかかり、もう何年も寝たきりになっていました。 兄弟は、近くの医者という医者に父親をみせてまわり、彼らが処方してくれる薬は、どんなに高くても手に入れて、父親に飲ませました。 兄弟は、たきぎを取って売ったり、人の家の雑用をしたりしながら、かろうじて生活していましたが、父親の薬代を出すにはお金がたりませんでした。 ある日、兄が弟を座らせて言いました。 「村の人から聞いたのだが、峠の向こうの崔さんのお宅で働き手をさがしているそうだ。手間賃をたくさん出してくれるというので、私はそこで働いてこようと思う。だから、その間、おまえは、お父さんのそばを片時も離れず、心を込めて看病してさしあげなさい」 「分かりました、お兄さん。いつもお兄さんにばかり苦労させてすみません」 弟はそう言って、兄の荒れた手をぎゅっと握りしめました。 「何を言うか。私よりも、いつもお父さんの看病をしているおまえのほうがもっと大変だろう」 兄も、弟の手を握りかえしました。 翌日、兄がふろしき包みをかついで家を出ようとすると、手に何かを持った弟が走ってきました。手に持っていたのは一本のけやきの棒でした。 弟は、そのけやきの棒を差し出して言いました。 「遠い道のりを行くお兄さんに握り飯も包んであげられなくてすみません。代わりに、これでも持っていってください。これを杖にすれば、少しは楽に峠を越えられると思います」 「ありがたい。それではあとを頼むぞ」 兄は、半日でも早く着いて働けば、その分早く家に帰ってこられると思い、休まずに歩きました。 そのように歩きつづけると、いつしか夜になり、気がつくと真っ暗な山の中を歩いていました。 兄は、お墓が二つ並んでいる所で足をとめました。 「あたりが真っ暗で、どこがどこだか分からないなあ。しかたがない。日が昇るまで、少し眠ろう」 兄は、お墓とお墓のあいだのへこんだ所に横になり、落ち葉で体をおおいました。空には、ぼんやりと三日月が浮かんでいました。 “お父さんは大丈夫だろうか。弟は、一日中、何も食べていないと思うが‥‥。弟よ、数日だけがまんしてくれ。この兄がお金を稼いですぐに帰るからな” いろいろなことが頭に浮かんできて、なかなか眠りにつくことができませんでした。 そのときです。どこからか、人のざわめくような声が聞こえてきました。 “私のように、山の中で夜を明かす人たちがほかにもいるのだなあ” このように思い、兄はあまり気にかけませんでした。 ところが、その声はしだいに大きくなってきました。ふと見ると、真っ黒な形をしたものがこちらをにらんでぼんやりと立っていました。兄は、びっくりして、目をぎゅっとつむりました。 しかし、人なのか何なのか確かめなければならないと思い、うす目を開けて注意深く見てみました。それは、頭にとがった角が生え、顔には大きな目が一つしかない大男でした。 “あっ、鬼だ!” 兄は、思わず起き上がって逃げ出しそうになりましたが、すぐに気を取り直しました。 “トラの穴に入っても、心を強く持てば大丈夫と言うではないか。私がじっと動かないで寝ていれば、鬼たちはそのまま行ってしまうかもしれない” そう思い、兄は目をぎゅっと閉じて、凍りついたようにじっとしていました。すると、一人の鬼が、兄の肩をとんとんとたたきました。 「おい、もう起きろ。ふもとの村に行くことにしておきながら、寝ていてどうするのだ?」 しかし、兄は、少しも動きませんでした。すると、今度は、ほかの鬼たちが足でお墓をけとばして言いました。 「やい、こうしていれば日が明けてしまう! 早く行って、牛の魂を取ってこなければならないだろう!」 鬼たちは、兄を鬼とかんちがいしているようでした。それに気づいた兄は、さっと起き上がり、鬼の声をまねて言いました。 「悪かった。おれは少し体の調子が悪いので、おまえたちだけで行ってきてくれないか」 「もちろん、だめだ。おれがおまえを背負っていくから一緒に行こう」 兄は、しかたなく鬼の背中に乗りました。すると、鬼が首をかしげながら、 「へんだな。鬼がこんなに重いはずはないのだが‥‥」 と言うではありませんか。びっくりした兄は言いました。 「おれは体の調子が悪いと言ったではないか。体の調子が悪いので、ぐったりして重いのだ」 鬼は、なるほどそうかと、うんうんとうなづきました。しかし、いくらも行かず、また鬼が、 「やっぱりへんだ。おまえ、腕をちょっと出してみろ」 と言いました。 兄は、どうしようかためらったのち、弟がくれたけやきの棒の細いほうを出しました。鬼は、棒をちらっと見て、 「今度は、足を出してみろ」 と言いました。兄は、すぐにけやきの棒の太いほうを出しました。すると、鬼は、舌打ちをしながら 「ちっ、どんな病気になれば、こんなに水のたまった骨になるのだ。おまえが重いのは当然だ」と言いました。 兄は、ふうっと安堵のためいきをつきました。ふもとの村に到着すると、鬼は兄をおろして言いました。 「おまえは体が悪いから、ここで休んでいろ。おれたちだけで行って来る」 鬼たちがいなくなると、兄はすばやく大きな岩の後ろにかくれました。 “このまま逃げても、すぐに鬼たちに捕まってしまうだろう。そうなれば、人間ということがばれて、だまされたと思った鬼たちは、私を殺してしまうにちがいない。いったいどうすればよいだろうか” あれこれ考えをめぐらせましたが、よい方法は浮かんできませんでした。やがて、鬼たちが戻ってくる音が聞こえてきました。 「近いうちに、金大監の家に行って来なければならないな。あそこの一人娘はすぐに死ぬだろう。おろかなやつらめ、よもぎをついて、その汁を飲ませれば、すぐに病気は治るのに、おかしな薬ばかりを煎じて飲ませている」 「人間たちは、みんなおろかなやつらだ。おかげで、おれたち鬼は楽しいが」 鬼たちは、「ひひひ」と笑いながら、兄のいる場所にどんどん近づいてきました。そのときです。「コケッコッコー」と、いちばんどりの鳴き声が聞こえてきました。 その瞬間、鬼たちは、おろおろとあわてふためき、すうーっとどこかへ消えていってしまいました。兄は、岩の後ろから出てきて、ふうっとため息をつき、体を大きく伸ばしました。そして、村の人に金大監の家を聞き出し、すぐに訪ねていきました。 金大監に会った兄は、 「娘さんの病気を治してさしあげましょう」 と言いました。 金大監は、兄の手を握りしめ、 「娘の病気さえ治してくれれば、そのお礼にたくさんのお金をあげましょう」 と言いました。 兄は、金大監の娘の病を調べるふりをしながら、 「すぐに行って、よもぎを取ってきてください」 と言いました。そして、取ってきたよもぎを受け取ると、よもぎ汁をつくって娘に飲ませました。 よもぎ汁を飲んだ金大監の娘は、しばらくして、うそのように寝床から起き上がりました。金大監は、涙を流して喜びました。そして、たくさんのごちそうを出してくれ、お金もありあまるほど持たせてくれました。 金大監の家を出た兄は、家路を急ぎました。しかし、今度は山の中で鬼たちと出くわさないように、日が暮れると粗末な宿で一晩を過ごしました。 夜が明けたのち、兄は、晴れやかな笑顔と軽い足取りで家に帰っていったそうです。  

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