夫婦愛を育む 99
「何もできることはありません」

ナビゲーター:橘 幸世

 買い物に行くため車のエンジンをかけると、ラジオで視聴者からの相談が紹介されていました。子供が難しい病気で大変な苦労の中にいる友人の力になりたいが、どうしたらいいか、何かできることはないか、というものでした。

 そこにいた二人のゲスト、作家と詩人だったと思いますが、即座に「ないですね」と言いました。力になろうとあれこれ言われても、相手はうっとうしく思うかもしれない、ただ、話を聞いてあげるだけでいい、それで友人は少し軽くなれる、という答えでした。

 ほんの1、2分の内容でしたが、私にはタイムリーなものでした。

 カウンセリングの本質は「ただ聞くだけでいい」と「理論は通用しない」の二つ、と著名な精神科医でありカウンセラーでもある高橋和巳博士の言葉を以前の記事(55)で紹介しました。他でも、「聞く」ことの大切さを何度か書いてきた私ではありますが、現実は、知識が実践にすぐ追いつくわけではありません。その数日前に失敗をやらかして、あらためてそのことの大切さを痛感したところでした。

 古い友人が葛藤を抱えていて、電話してきた時のこと。前々から事情を聞いていた私は、何とか力になりたくて、ひとしきり話を聞いた後、「~したらいいんじゃない?」的なことを一つ二つ言って電話を終わりました。
 しばらくして彼女からラインが来ました。
 「私、アドバイスが欲しかったわけじゃないんだけど」

 あ~、カチンときたんだろうなぁ、と思い、返信。
 「そうだよね、逆の立場だったら私もそう感じると思う」と謝罪です。そこまで言い合える近しい仲だけに、早く苦しい状況から抜け出てほしい気持ちが先走り、聞くだけに徹せられなかったのです。
 活動の中で話すことが当たり前だった若い時から染みついた習慣を抜けるのは、簡単ではありません。失敗を重ねて、少しずつ大切な幸福の知恵を身に付けていくのだと思います。

 さらにその直後、まるで神様から念を押されるかのように、期せずして読んだのが『平和を愛する世界人として』の次の一節でした。

 「私(真のお父様)は…精一杯の真心を込めて話を聞きました。…(中略)…私は本当に人の話を聞くのが好きです。誰であろうと自分の話をし始めると、時の経つのを忘れて耳を傾けます。…(中略)…そして、涙を流して祈りました」(pp.162-163

 お父様は話を聞かれて、祈られた、とあります。アドバイスした、とはないのです。真心込めて聞くことが、その人の生命を愛する道である、と言われています。


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