夫婦愛を育む 55
子は親を救うために“心の病”になる

ナビゲーター:橘 幸世

 ここしばらく心理学や自己啓発系の本には手が伸びないでいましたが、図書館で目にした『子は親を救うために「心の病」になる』(高橋和巳 著)という本、タイトルに引かれて借りて読んでみました。痛ましい児童虐待のニュースが続き、「なぜ?」という思いが心の底にあったこともあると思います。

 著者は精神科医で長年カウンセリングに携わっており、他のカウンセラーの指導も行っています。引きこもり、摂食障害、虐待、そして親が発達障害だったという子供たち、これら四つのケースについて、クライアント(カウンセリングを受ける人)とのやり取りを出会いから解決まで具体的に丁寧に描いていて、とても考えさせられました。

写真はイメージです

 取り上げられている最初の三つのケースは、いずれも親がカウンセリングの対象となっています。引きこもったり、摂食障害になったりしている子供当人ではありません。けれど、実際、親が内省し、胸の内に押し込んでいた幼い頃の思いをよみがえらせ整理していくにしたがって、子供の問題も解決していきました。

 親の心を解放するために子供に問題が生じる、という視点は極論のようにも聞こえますが、創造本性を取り戻していく今の時代において、特段の問題がないように見える人でも、程度の差こそあれ、通過すべき過程なのかもしれません。

 夫婦問題においても、自分の親との関係で解消されていない負の感情が反映されていることは珍しくありません。親に対するわだかまりが解けると、夫婦関係が良くなるのです。
 
 これらを見ると、結局誰もが、先祖から受け継がれてきた愛の宿題をやり切るために、家庭人としての課題に直面するのかもしれません。

 高橋博士によればカウンセリングの本質は二つ。「ただ聞くだけでいい」と「理論は通用しない」です。

 カウンセリングは悩みを解決する作業ではなく、聞くという作業を通してクライアントが自分を確認する作業であって、それが心の安定をもたらします。

 その際、何かの枠に当てはめずに、真っ白な心で聞け、ということでしょうか。
 高橋博士もこれまでの心理学者たちも、自身で経験していない問題を扱うのですから、相手の話を聞きながら、その人の立場に立って想像するしかありません。既存の理論や自分の経験が全てのケースをカバーしているわけではないので、それだけで人の気持ちを判断することは、ややもすれば危ういことでしょう。

 カウンセリングの根底に、人間への愛を感じた良書でした。