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週刊ぶれら 60
今、そこにあるディストピア

編集部

 桐野夏生さんのディストピア小説、『日没』(岩波現代文庫、2023年)を読みました。
 読後に残ったのは、ただ「実(げ)に恐ろしい」のひと言に尽きる戦慄でした。

 本書のカバーコピーには、こうあります。

 小説家・マッツ夢井のもとに届いた一通の手紙。それは「文化文芸倫理向上委員会」と名乗る政府組織からの召喚状だった。出頭先に向かった彼女は、断崖に建つ海辺の療養所へと収容される。「社会に適応した小説」を書けと命ずる所長。終わりの見えない軟禁の悪夢。「更生」との孤独な闘いの行く末は――

 政府による表現の検閲と、思想信条の「更生」という名目の自由剥奪を描いた作品ですが、筆者は冒頭から強い既視感を覚え、息が詰まるような感覚に陥りました。

 作中で描かれる、正義を盾にした隔離、執拗な心理的誘導、そして「社会への適応」を迫る有形無形の圧力。それは、家庭連合の信者に対して長年行われてきた拉致監禁・強制棄教の構図、メディアや世論による苛烈な一斉攻撃、ひいては解散命令請求へと至る国家や社会の動きと、あまりにも不気味に重なり合うからです。

 裏表紙の帯には、「足下に拡がるディストピアを描き日本を震撼させた衝撃作」という言葉が躍ります。
 文学をどう読み解くかは読者の自由ですが、現代の日本社会で逆風にさらされている当事者の視点から見れば、この小説は単なる「絵空事の未来」ではありません。すでに私たちの足元に浸透しつつある、現実の恐怖そのものなのです。

 「事実は小説よりも奇なり」といいますが、時には「事実は小説よりも残酷」なのです。
 信教の自由という、人間の内面における最も神聖な領域が脅かされ、絶望と背中合わせで生きる人々が今、この現代の日本に実在しているのです。
 『日没』が描いた暗黒世界は、本を閉じた私たちのすぐ外側で、すでに始まっているのかもしれません。

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