夫婦愛を育む 89
失敗を怒らない?

ナビゲーター:橘 幸世

 某保険会社のCMで、少年が誤って車のドアに傷を付けてしまうシーンがあります。不安そうに「ごめんなさい」と謝る彼に、車の持ち主の青年が「大丈夫、心配するな」と優しく応えます。
 修理代は保険でカバーできるから大丈夫、というメッセージですが、シビアな私は「翌年から保険料が上がる分を考えて自払いすることもあるけど」と心の中でツッコミを入れます。現実、一言も責めずに対応するのは(己を見ると)そう簡単ではないと感じていました。

 先日友人のHさんが、県外の大学で学んでいる娘さんの所を夫婦で訪ねた時の“失敗談”を話してくれました。
 彼女が目薬やリップクリームなど細かな物を娘さんの本棚の上の空いたスペースに出していた時、誤って真の父母様のお写真カードを落としてしまいました。場所は本棚と壁とのわずかな隙間です。取るには、理系の専門書がびっしり並んだ本棚を動かさなければなりません。体重40キロの華奢(きゃしゃ)な彼女は、すぐに諦め、次の引っ越しまで待つしかないと思いました。

 娘さんは即座に「それは駄目でしょ!」ときっぱり。あら、自分より尊ぶ姿勢がしっかりしている(私、不信仰かな?)、と思ったそうです。「はいはい、取ってあげるよ」と、移動で疲れているご主人が本棚を動かしに取りかかります。ところが今度は、組み立て式のその本棚が分解しかけてしまいます。さらに手間が増えてしまった上、自分はご主人と娘さんの作業を邪魔しないように見ているだけ。すっかりシュンとして、「ごめんなさ~い」と言うことしかできません。まるで何かを割ってしまい、両親がそれを片付けているのを見ているしかない幼い子のようだった、とHさんは言いました。

 やがて本棚も無事組み立て直され、カードも回収されました。
 「ありがとう」「ご苦労さまでした」と言う彼女に、ご主人からも娘さんからも責めの言葉はなかったそうです。「やれやれ大変だった」「全くもう」「今度から気を付けてね」など、一切なかったとのこと。
 CMにツッコムような私にとって、それはちょっとした感動でした。
 そして当の彼女は、二人の(特にご主人の)広い心に触れ、守られていると感じたそうです。

 もちろん、失敗した当人が非を自覚していない時は、言葉にしてきちんと言わなければならないでしょう。でも、当人がはっきりとそれを自覚し申し訳ないと思っている時は、責める必要はありませんし、得策でもありません(一言言いたくなるのが堕落性を持つ人間の常ですが…)。

 「責められたら開き直る」(第43回で掲載)と以前に書きましたが、Hさんのケースのように、「責められなくて愛を感じる」ことを心に留めおきたいと思います。