2025.11.14 17:00

青少年事情と教育を考える 305
乳児にも利他の心がある
ナビゲーター:中田 孝誠
今回は、赤ちゃんには生まれつき、利他の心、善悪を見分ける心が備わっているという話を取り上げたいと思います。
子供が生まれたばかりの親に「どのような子供に育ってほしいか」と尋ねると、多くの親が「思いやりがある子に」と答えます。

他の哺乳類に比べて人間の赤ちゃんは未熟で、成長に時間がかかります。そのため保護者や複数の大人の手助けが欠かせません。
それでも、生まれたばかりの赤ちゃんはただ自己中心的というのではなく、人として大切な能力、道徳観や倫理観の基礎が生まれつき備わっているという研究が以前からあります。
例えば、2歳未満の幼児であっても、自分が好きなお菓子をもらう時より、他の誰かにお菓子をあげるときの方が大きな喜びの表情を見せます。
また実験者が他の誰かにお菓子を与えるより、幼児自身が自分のお菓子をあげた時の方が、より大きな喜びを感じているという研究があります(奥村優子著『赤ちゃんは世界をどう学んでいくのか』光文社新書)。
言葉を話せない乳児でも道徳的判断力が備わっていて、いじめを行う者を視線によって罰するという道徳的な行動があることが示されています。乳児でも善悪を判断し、善の行動をするというわけです(大阪大学などの研究グループ「8ヵ月の乳児も“悪者”を罰する 前言語期乳児の道徳的行動を解明」)。
『ジャスト・ベイビー』という本の著者であるポール・ブルーム教授(米エール大学)は、「人間の脳には生まれつき道徳観念が組み込まれており、赤ちゃんや幼児でさえ、他人の行動の善悪を判断できる。そして、善行に報い、悪行を罰したいと自然に欲するものなのである。とっぴな主張だと思われるかもしれないが、多くの研究室で立証されている」と語っています(CNN日本語ウェブサイト 2014年5月6日)。
これらは“良心”あるいは“本心”と言っていいかもしれません。このように人間には生まれながらに利他の心、相手に共感する心が備わっているわけです。
そして、こうした利他心や道徳心をきちんと育てていく上で、大人の道徳的行動、利他的な行動を意識するということが、子育てにおいても最も重要なポイントの一つだといえるかもしれません。