2025.04.01 17:00
シリーズ・「宗教」を読み解く 360
母なるものを慕い求めて④
多様な聖母マリア像
ナビゲーター:石丸 志信
プロテスタント諸教派の伝統においては、普通、聖母マリアに崇敬心を表すことはない。
「カトリック教会はマリア信仰」といわれるが、それは誤解である。
マリアを信仰の対象とは見ておらず、神の子を生んだかたとして特別な敬意を払うが、救われるべき人間の代表としている。
信仰のあるなしに関わらず、芸術文化の領域において、「聖母マリアのイメージは、今も偏在して文化のキイのひとつになっている」(『聖母マリア』竹下節子著 講談社、8ページ)ことは間違いない。
ここでいう「聖母マリア」は、歴史上のマリアそのものを指すわけではない。
福音書に記された一人の婦人を指すだけでなく、二千年間キリスト教徒たちが抱いてきた多種多様なイメージがそこに合わさっている。
信徒たちが祈りの中で体験してきた複合的な意味合いを無視しては、キリスト教の霊性の豊かさを理解することが困難になる。
言い換えれば、キリスト教徒が聖母マリアに託したイメージの中に、聖霊の働きとは何かを知る手がかりを見いだすことができるのではないかということだ。
第一に、聖母マリアに託された強力なイメージは「母なるもの」だ。
過去、現在、未来に続く聖母マリアへの信心の変遷を探究した歴史家は「時代が変わり、場所が変わり、姿が変わっても、マリアは、いつも現役の『強い母』でありつづけることだろう」(同、219ページ)と結論付けた。
キリスト教史において、古代の教父がまず「母なるもの」のイメージを強力に打ち出した。
新約聖書の中で、パウロは、「このようなわけで、ひとりの罪過によってすべての人が罪に定められたように、ひとりの義なる行為によって、いのちを得させる義がすべての人に及ぶのである」(ローマ人への手紙 第5章18節)と書簡に記し、原罪を犯したアダムに対してイエス・キリストを「後のアダム」と呼んだ。これを踏まえて、2世紀のリオンの司教エイレナイオスは、不従順によって罪を犯したエバに対して従順によって信仰を立てたマリアを「第二のエバ」と呼んでいる。
「アダムとエバ」に対比させて「イエス・キリストと聖母マリア」を挙げることで、聖母マリアは、清き乙女であると同時に新しい人類の母のイメージを担ってきた。
『文化史の中のイエス』の著者ヤロスラフ・ペリカンは、聖母マリア像の変遷を追いながら、その中に一貫して変わらないものを見いだした。彼はその著書の結びにこう述べている。
「聖母マリアは、過去二千年の歴史で演じてきた役割により、『女であることは一体なにを意味するのか』のテーマでは西欧世界の他のいかなる女性よりも議論の対象とされてきた。『第二のイヴ』としてしばしば比較されるイヴと共に、マリアは歴史の流転の中で時には最良の、また時には最悪の女性像を提供し続けてきた」(『聖母マリア』ヤロスラフ・ペリカン著 関口篤訳 青土社、288ページ)
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