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愛の知恵袋 173
心のサードプレイス

(APTF『真の家庭』294号[20234月]より)

松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)

心の安全のトライアングル

 私達が長い人生を歩む中で、いつも心が安定し生き生きとして前向きな気持ちで暮らせるのならば何も問題はありません。しかし、現実にはそうはいきません。

 若い思春期の頃は将来への不安があり、劣等感に悩んだり、孤独に陥ったりすることがあります。実社会に出てからは競争の厳しさや人間関係のストレスで挫折を味わうこともあります。結婚してからも順風満帆とは限らず、夫婦間の葛藤や育児ノイローゼになると心がひどく疲れます。また高齢期には伴侶に先立たれたり、闘病生活になると、憂鬱になり底知れぬ寂しさに襲われることもあります。

 そのような山あり谷ありの人生を生きていく中で、たとえどん底に落ちた時でも絶望に陥らず、気を取り直して再び立ち上がっていくことができるためには何が必要なのでしょうか? それが“心のサードプレイス”です。

 「仕事」と「家庭」のほかに、もう一つの“心の居場所”をつくっておくことが大切です。試練に遭った時に、自分の心を癒し、励まし、復活させてくれるもう一つの“心の拠りどころ”が必要なのです。

 私達が精神的健康を維持するためには、「家庭」と「職場」と「第三の場所」…この三つの場所を持ってバランスよく機能させることが肝要です。

 私はこれを「心のトライアングル」と呼んでいます。

「家庭」と「職場」と「もう一つの場」

 職場や仕事上の人間関係は、良くも悪くも避けては通れません。この地上で生きていく限り、働いて収入を得て食べていかなければならないからです。

 「仕事」の世界は容赦のない競争と闘いの世界であり、常に張りつめた緊張感があります。会社員たちがアフターファイブの居酒屋で愚痴や不満をぶちまけて発散している気持ちはよくわかります。

 ただ、仕事上の人間関係ではライバル意識や利害関係が付きまとうので、自分の本音をさらけ出すことは難しく、本当の心の友を得ることは難しいものです。もちろん、そこで終生の友人ができる場合もありますが、多くは“仕事の切れ目が縁の切れ目”になります。

 では「家庭」はどうでしょうか。夫婦や親子や兄弟姉妹という家族の情的関係で成り立っている家庭は「最後の砦」であり、「究極の拠りどころ」です。本音で何でも言い合える関係、全てを受け入れ癒してくれる寛容と愛情に包まれた家族の世界であることが理想です。

 しかし、まだ人格が未熟な私達が織りなす家庭ですから完全ではありません。

 配慮を欠いた失言一つで夫婦間に亀裂が入ったり、親子の断絶が生じることもあるので、たとえ家族同士でも言えることと言えないことがあります。

 そのため、相手を傷つけまいと絶えず気を使って暮らしている側面があり、それがストレスになっている場合もあります。特に、子育て中の母親はデリケートで、心身ともに疲れ果てて不安定になりやすいものです。

 従って、ここでもやはり、心が本当に解放される第三の場所が必要になります。昔で言えば「井戸端会議」、今なら、お茶を飲みながら愚痴を発散できる「女子会」がその役目を果たしているのでしょう。

「心のサードプレイス」をつくっておこう

 “サードプレイスの候補地は、仕事の利害打算を離れ、家族の義務感や束縛感もない、本当に心がくつろげる場所です。

 例えば、趣味の仲間、ボランティアの仲間、気の合うママ友、昔からの幼なじみ、同じ思想や信仰をもつ団体の仲間、学校や職場で出来た無二の親友…などです。

 昔と違って、地域の住人同士の付き合いや親戚縁者との交流も希薄になった現在では、じっと待っていても仲間や親友はできません。「何でも話し合える友達をつくろう」と意識して努力する必要があります。

 そうしてできた友逹との語らいの場が、自分になくてはならない“心のサードプレイス”になってくれます。

 最近では、ネットという仮想空間の中で心の友を見出そうとする人もいますが、やはり、実体の友人を得ることが理想です。

 現実問題として「最後に頼れるのは家族だけ」というのは真実ですから、若いうちに必ず結婚して伴侶と子供を持ち、愛情を注いで夫婦・親子の親密な関係を築いておくことが何よりも大切であることは言うまでもありません。

 さらにその上で、高齢期の生活も充実したものにするために、良き友のいるサードプレイスを持っておけば、家族とはまた違った角度から励まされ助けられて、私たちの晩年を明るく有意義なものにしてくれるに違いありません。

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