青少年事情と教育を考える 181
大学の研究の質向上と人材育成強化を

ナビゲーター:中田 孝誠

 前回に続いて、大学の課題を取り上げます。

 今春、私立大学の入学者数が定員を下回り、初めて入学定員割れになったことを取り上げましたが、大学が直面する課題は入学者数だけではありません。
 近年、繰り返し指摘されているのが、研究の質と若手研究者が減っている問題です。

 自民党は10月の衆議院選挙の公約として、科学技術立国を目指して10兆円規模の大学ファンドを設立し、若手研究者の育成を進め、研究環境の整備や独創的な研究を支援することを打ち出しました。

 また、地域の中核となる大学が企業や地域と連携して社会をけん引する存在となるよう、大学の機能を強化して、研究開発の成果を社会に展開できる制度改革を進めるとしていました。
 大学の研究力と人材育成を強化していくというわけです。

 ちなみに私が知る限りでは、他党の公約には授業料の支援や入試改革などの公約はありましたが、大学の研究と人材育成を述べていたのは自民党だけでした。

 今年のノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎さん(米プリンストン大学上席研究員)をはじめ、日本の研究の質の低下は繰り返し指摘されてきました。
 このことを象徴する一例が、科学論文です。

 文部科学省の科学技術・学術政策研究所が8月に公表した「科学技術指標2021」によると、日本の1年間当たりの論文数は世界第4位で前年と変わらなかったものの、注目度の高い論文数(他から引用されることが多い上位10%の論文数)では9位から10位に後退しました。

 こうした低下傾向は20年前から続いています。日本の大学に対する世界からの信頼が低下しているとの声さえ聞こえます。

 また、日本の研究開発費は18兆円で主要国では3位ですが、米国や中国などが年間で10%程度増やしているのに対して、日本は微増にとどまっています。

 そして、日本の研究者は68万人で、5年前からわずかながら減少しています。原因は博士号の取得者の減少です。主要国のほとんどで博士号の取得者が増えているのに対して、日本は2006年頃から減少しているのです。
 博士課程に進学しても、研究者の道は限られていて就職先がなかなか見つからず、将来に不安を抱えている人が少なくありません。

 新たな大学ファンドの創設、また次世代の研究者育成のため来年度から博士課程の学生を対象に1人290万円が支給される予定です。大学の研究の質の向上と次世代の人材育成は、国の基礎を築く上でも重要な取り組みなのです。