夫婦愛を育む 149
そんな言い方じゃ駄目でしょ!

ナビゲーター:橘 幸世

 昨年末より続いた歯の治療が先日ようやく終わりました。
 先回の治療の後、「次回は歯磨きの指導をしますから」と言われた時は、一瞬耳を疑い、受け止めるのに少なからず葛藤しました。

 「子供じゃないんだけど」「何を今更」「昔他の歯科で受けた」「以前ここでも褒められた記憶がある」「長年一日4回きちんとしている」という思いをこらえて、歯科医という“権威”のもとに患者は「はい」と屈服です。

 この例に限らず、たとえ親切心からだとしても、子供や初心者のように接せられると、素直に受け止め難いことがあります。
 逆に、心配から発する余計な一言を主人に言って「子供じゃないんだから」と不機嫌そうに返されることも(講座でNG行動として紹介していながらも、たまに出てしまいます)。

 現在放送中の大河ドラマ『麒麟がくる』、先日、録画しておいた1月17日放送分を見たところ、「ああぁ、そんな言い方じゃ駄目でしょ。相手は受け入れられないよ」と心の中でツッコむシーンがありました(他の人のことはよく見えるのです)。

 主人公の明智光秀が、主君である織田信長に名器・平蜘蛛の茶釜を差し出します(史実としては、所有していた松永久秀の死と共に破壊されたという説が有力です)。その際光秀は、信長に以下のようなことを言います。

 「それを持つ者は誇りを失わぬ者、志高き者、心美しき者と聞きました。信長様にもそうなっていただきたい」

 言っている本人は大真面目ですが、それって「今はあなたはそうじゃない」と言っていることと同じです。

 もともと自己肯定感が低く(少なくとも本ドラマでは)、実母に認められずにきた分を穴埋めするかのように妻が褒めてくれることを喜び、さらに天皇に褒めてもらうのがうれしくてたまらなかった信長でした。

 けれど、武士のトップに上り詰めてからの彼の振る舞いに、妻や天皇が距離を置くようになっていきます。そのタイミングで部下がダメ出しをするなんて、KYもいいところです(こんなふうに書くと、一部の大河ファンからはお叱りを受けるかもしれませんが)。

 支えになっていた人たちが離れていき内心孤独を感じているけれど、プライドは高い。そんな主君に、部下の立場で説教しているのですから。しかもこれは、主君と友の板挟みの中で、主君の信頼を損なうような言動をした後のことです。

 どんな正論も、言い方とタイミングを間違っては相手に響きません。人間は理性よりも感情の方が強いのです。夫婦関係・親子関係でも一緒ですね。
 そして、何よりも信頼関係。

 日々の人間関係の中で、思うところはさまざまあれど、まだそれを言えるだけの信頼は勝ち得ていないと、口をつぐむことがままあります。
 では、言えるような関係になるための努力をどれだけしているか、と己に問えば、真の意味で愛する努力が欠けている自分が見えるのです。


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