世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

EUと英の「ワクチン争奪」?

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は125日から131日までを振り返ります。

 この間以下のような出来事がありました。
 米、軍にトランスジェンダー容認(25日)。米露、新START(新戦略兵器削減条約)を5年延長で合意(26日)。トランプ氏、共和党議員と和解(28日)。EU(欧州連合)、新型コロナワクチンの輸出管理を発表(29日)、などです。

 フォンデアライエン欧州委員長は129日、「市民を守る最優先課題のため、必要な措置を導入する」と訴え、新型コロナワクチンの「輸出管理策」を発表しました。

 その内容は、EU域内に工場を持つ製薬会社に出荷量や輸出先の報告を義務付け、EUが確保したワクチンの供給が著しく脅かされる場合は、輸出指し止めも辞さない、というものです。

 管理策の対象外はCOVAX(コバックス、ワクチンを公平に配分する国際的枠組み)、EUとの経済提携国であるスイスやノルウェー、ヨルダン、エジプトなど、さらに途上国向けとなっており、この措置は3月末まで続ける予定というのです。

 米国や英国、カナダ、日本などの域外先進国は対象となります。日本のワクチン接種計画に影響が出ることも考えられます。

 どうしてこのような事態になったのでしょうか。
 EUはこれまで、域外国の支援用も含め、英アストラゼネカや米ファイザー社など複数社と計約23億回分の購入契約を結んでいます。

 EUのワクチン供給のしくみは、欧州委員会が加盟27カ国を代表して製薬会社と契約を結んでおり、各国が人口に応じてメーカーから供給枠を確保し、29日にも使用が承認される見通しだったのです。

 ところが英製薬大手アストラゼネカからのワクチン供給が、3月末までの予定分(1億回分以上)の大半が届かない見通しになったのです。さらに「英国優先」の供給も明らかになりました。

 アストラゼネカ社のパスカル・ソリオ最高経営責任者(CEO)は欧州メディアのインタビューで、その理由を以下のように説明しました。

〇英国の工場からの供給態勢は整っているが、EU向けのベルギーとオランダの工場が絡む工程に問題が残っている

〇ワクチン開発には英国政府が関わった上、EUより3カ月早く契約を結んだことから、英政府が「まず英国に」と求めたことは理にかなう

〇英国の工場からEU向けの出荷は選択肢の一つだが、英国で十分な接種がなされた後になる

EUとの契約は最大限努力する

 日本への影響も懸念されます。
 129日、河野太郎行政改革担当大臣はダボス・オンライン会議に参加し、EUによるワクチンの輸出管理強化策について「非常に懸念している」と語りました。
 「われわれはEUからワクチンを日本に輸入することも考えていた」として、日本のワクチン接種計画に悪影響を及ぼす可能性を示しました。

 先進国間のワクチン争奪は途上国での接種計画を大幅に遅らせることになり、パンデミックのさらなる悪化が心配です。