世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

中国、海警法成立で武器使用の容認へ

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は1月18日から24日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 文在寅大統領、新年記者会見で慰安婦判決に「困惑」と述べる(18日)。ポンペオ国務長官、中国のウイグル族「虐殺」認定(19日)。バイデン氏、米大統領に正式就任(20日)。中国、武器使用認める海警法成立(22日)。中国軍機28機が台湾防空識別圏に進入(24日)、などです。

 今回も中国問題です。
 中国の力による現状変更圧力が強くなっています。中国の立法機関である全国人民代表大会の常務委員会は1月22日、海上警備を担う中国海警局(海警)に武器使用を認める権限などを定めた海警法草案を可決、成立させました。この法案提出者は中央軍事委員会です。

 海警法のポイントを挙げておきます。
・主権の侵害時は武器使用を容認。攻撃されれば公船搭載の武器の使用も可能。
・軍指導機関の命令で防衛作戦などの任務。
・領海や排他的経済水域(EEZ)、大陸棚で法執行。人工島、上空も対象。
・管轄海域での航行を臨時に制限・禁止。
 などです。

 中国の海警局は、日本でいえば海上保安庁と言えます。海洋において日常的に外国の船舶や市民と接する公権力執行機関です。しかし中国の海警とわが国の海上保安庁とは似て非なる組織と言わなければなりません。最大の違いはこれら二つの組織が軍隊・軍事力であるか否かにあります。

 中国の習指導部は2018年、海警を国務院管轄の国家海洋局から人民武装警察部隊(武警)に編入。最高軍事機関の中央軍事委員会の指揮下に入れたのです。海警の「第二海軍化」を進めており、「海上武装力と法執行力」を有する組織となりました。人事や運用面でも軍の影響が強化されました。実質的には「軍隊・軍事力」となったのです。
 一方、日本の海上保安庁は国土交通省の外局として設置されている警察機関です。

 中国海警法は2月1日に施行されます。
 海警は近年、東シナ海の尖閣諸島周辺で巡視船による領海侵入を繰り返しています。今後、独自の領有権主張を展開する東・南シナ海での活動に法的根拠を与え活動が強化され、統制を強めることになるのは必至です。

 昨年、中国公船(海警の船舶)が尖閣諸島周辺の接続水域を航行した日数は過去最多の333日に及びました。海警法の成立によって、海警局の船は「軍隊」ではないとは言えない状況になります。
 日本側の対応が中途半端であれば、結果として紛争を招くことになります。具体的事例を前提に米国との協議を早急に進め、抑止力を高める現実的行動に出る必要があるでしょう。
 かつて尖閣諸島の久場島は米軍の射爆場だったことを想起すべきです。