世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

レアメタル・レアアース「争奪戦」が本格化

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は1月11日から17日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 トランプ大統領 2回目の弾劾訴追(13日)。WHO(世界保健機構)調査団が中国・武漢入り(14日)。レアアース統制強化へ~中国草案発表(15日)。北朝鮮、最高人民会議を開催(17日、18日に閉幕)、などです。

 中国政府(工業情報化省)は1月15日、「レアアース管理条例」の草案を発表しました。
 中国は世界生産量の6割超を占めており、「戦略資源」と位置付けています。この措置は米国への対抗措置であり、本格化する「覇権的行動」の一環であると言えます。

 まず、レアメタルとレアアースについて説明しておきます。レアメタルは日本だけで通じる用語で希少金属を意味し、ニッケル、白金、コバルトなど31種類あります。電気自動車のモーターや電子製品などに使われる極めて重要な物質です。

 レアアース(希土類元素、17種類)はレアメタルのくくりに含まれます。ネオジム、ジスプロシウムなどは永久磁石に欠かすことができず、イットリウム、ユウロピウムは固体レーザーやカラーテレビのブラウン管、蛍光灯などに使用されています。

 中国のレアアース管理条例は、国家の安全と利益のため、採掘中心だった管理を精錬や販売、流通まで広げるとし、企業がどこに輸出したかまで情報を追跡できるよう求め、政府が示す生産量などの指標を守ることを義務付ける内容となっています。

 中国の動きは昨年末から本格化しました。昨年12月1日、「輸出管理法」を施行したのです。目的は、安全保障にかかわる製品などの輸出規制を強化するためとしていますが、アメリカ政府からの圧力に対抗する措置であることは明らかです。

 内容は、対象となる品目の輸出を許可制にし、特定の外国企業などをリスト化し輸出を禁止し制限する。違反した場合には罰金を科すというのです。
 品目はデータの暗号化に関連する製品や技術やソフトウエア、次世代暗号技術、「量子暗号通信」関連の装置も含まれるとしていました。今回の条例案はこの一環なのです。

 中国のこの動きに対応するため、日米豪印4カ国がレアアース連携を行い、安定供給体制強化に着手しています。昨年12月18日、4カ国の局長級協議でレアアースのサプライチェーン(供給網)を巡る協議を行ったのです。

 中国は今、レアアース供給で高いシェアを誇っています。
 例えば、2018年のコバルト製錬の国別シェア(天然ガス・金属鉱物資源気候資料などから産経新聞が作成)では、生産量の63%が中国(コバルト鉱石の半分以上はコンゴで生産。環境を犠牲にしつつ輸入して国内で製錬)、10%がフィンランド、5%がベルギーとカナダ、3%がノルウェー、その他13%となっています。

 日本企業は現在、中国産のレアアースを使い、高性能磁石などを生産して再輸出しています。レアアース全体のおよそ6割を中国から輸入しているのです。

 現状を変えようと日本政府も動き出しました。日本最東端の南鳥島周辺(EEZ内)の海底に埋蔵されるコバルトなどのレアメタルについて、採掘の商業化を進める方針を固めたのです。2028年までの採掘技術確立を目指しています。

 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)によれば、南鳥島周辺にはコバルトリッチクラストとよばれる鉱物塊が広く分布しており、国内消費量で約88年分のコバルトや約12年分のニッケルが存在すると推定されているのです。日米豪印4カ国の共同開発もあり得るでしょう。