世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

金正恩氏、党大会で米朝対話路線終焉を宣言

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は1月4日から10日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 第8回朝鮮労働党大会開幕(5日)。米上下両院、バイデン氏の大統領当選を確認(6日)。菅首相、緊急事態宣言を再発令(7日)。ソウル地裁、元慰安婦への賠償を日本政府に求める判決(8日)。金氏、党総書記に就任(10日)、などです。

 北朝鮮の平壌で1月5日、第8回朝鮮労働党大会が開幕されました。金正恩党委員長の体制下での開催は2016年5月以来、2回目となります。党中央と各組織の代表約5000人とオブザーバー約2000人がノーマスクで参加しました。

 金氏は開会の辞で、2016年の前回党大会以降の核・ミサイル開発を念頭に、「奇跡的な勝利で祖国と人民の運命を守れる強力な保証を整えた」と誇示しました。

 その半面、「経済建設を促し、人民生活を向上させる土台も築いた」としつつ、昨年までの5年間の経済戦略について「目標のほぼ全ての部門で遠く達成できなかった」と失敗を認め、謝罪をしたのです。
 平壌総合病院、元山葛麻海外観光地区計画、順川リン酸肥料工場など、ことごとく外貨不足で資材、部品調達ができなかったなどの理由で未完成となってしまったのです。

 北朝鮮経済は逼迫(ひっぱく)しています。4年以上続く国連経済制裁、数年間にわたる食糧不足、コロナ禍への対応で中朝国境を封鎖、昨年夏から初秋にかけての集中豪雨と台風被害などが重くのしかかっているのです。

 今党大会の注目点は「新たな5カ年計画の内容」「核ミサイル開発などの国防政策の内容」「軍事パレードは行われるのか」「金与正氏は政治局員に昇格するのか」などです。

 国防政策について、朝鮮中央通信は9日、以下のように伝えました。
 金氏は対外政治活動について、「最大の主敵である米国を制圧・屈服させることに焦点を合わせる」と表明。米国との対決姿勢を明確にしたのです。そして米本土を狙うICBM(大陸間弾道弾)の高度化や原子力潜水艦、戦術核兵器の開発にも言及し、非核化に応じない姿勢を鮮明にしました。

 「米国で誰が政権についても対(北)朝鮮政策の本心は変わらない」と強調し、バイデン新政権の誕生を前に、トランプ米政権との対話路線は終わりを告げ、敵対関係を前提にした米朝関係に回帰したことを内外に宣言しました。

 そして、中国とは「切っても切れない一つの運命」で結ばれている「特殊な関係」にあると述べ、「親善関係の新しい章を開く」としました。ロシアとは伝統的な関係の新しい発展を実現すると述べ、中露との連携で米国に対応する姿勢を明確にしました。日本に関する言及はありませんでした。

 核・ミサイル開発での強硬路線がさらなる制裁と経済の逼迫を招くのは必至です。中露からの支援以外では外部に依存せず、自力で回していくしかないのが実情です。このため金氏が報告で、「自給自足」に言及したことも注目すべき内容と言えます。

 必然的に米朝、南北関係も行き詰まった状況が続くでしょう。北朝鮮が韓国に望むのは米韓合同軍事演習中止と大規模な経済協力でしょう。しかし、米国の意向を考えれば不可能です。 

 文在寅大統領にとって最も恐れることは北朝鮮との対話の窓口が閉ざされることです。これまでは米国との連携で開いてきましが、バイデン政権では無理です。
 日本で開催される東京五輪の場をその機会にすべく、韓国側からの働き掛けがあります。しかし、元徴用工、慰安婦訴訟がその道を阻んでいるのです。

 日本が今後の東アジア情勢を変えることができる立場に立ちつつあることが明確になってきているのです。