世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

心配な文政権の検察改革

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、12月14日から20日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 米、ワクチン接種開始(14日)。米バイデン氏、過半数の選挙人を獲得(14日)。韓国検事総長に停職2カ月 政権と対立、今後法廷闘争か(16日)。連合会長、立民・共産の連合政権は「まずあり得ない」と発言(17日)、などです。

 韓国文在寅政権の支持率が、12月に入って発足以来最低になりました。
 韓国の世論調査会社、リアルメーターが12月3日発表した文政権の支持率が前週より6.4%落ちて37.4%になり、不支持率は5.2%上がって過去最悪の57.2%となったのです。
 政党支持率も与党「ともに民主党」が28.9%、最大野党「国民の力」は31.2%となり、ついに逆転を許してしまいました。その後の数字も大きな変化はありません。

 背景となっている要因はいくつかありますが、その一つに「検察 VS 文政権」という対立構図に対する国民の疑念があるのです。

 12月16日、法務省の懲戒審査委員会の審議を経て、尹錫悦(ユン・ソクヨル)検事総長に2カ月間の停職が言い渡されました。
 韓国史上初の検事総長に対する懲戒処分です。

 その直後、秋美愛(チュ・ミエ)法相が自らの辞職を文大統領に申し入れました。尹氏は法廷闘争を続ける意向を明らかにし、率いる検察もひるむ様子はありません。今後、法廷で争われることになりました。

 なぜこのような事態になってしまったのかを説明します。

 文在寅政権が掲げる公約の中で核心的なものは二つ、「南北融和」と「国家権力機関の改革」です。改革対象となる権力機関とは、検察と国家情報院です。
 権力機関これまで保守派政権と結び付いて民主派を弾圧してきたという見方が背景にあります。

 尹錫悦氏は、保守派の朴槿恵(パク・クネ)前大統領の捜査を率いた経歴を持っており、文氏に検察改革を期待されて昨年7月に就任しました。にもかかわらず今は、深刻な対立関係にあるのです。

 尹氏は、「権力から独立した検察」が持論、信念の人です。
 その「本質」は、すぐに現れました。ソウル中央地検が一昨年末、将来の大統領候補といわれた曺国(チョ・グク)前法相を家族の不正疑惑に絡んだ収賄罪などで在宅起訴することを認めたのです。

 その後、尹氏は辞任した曺氏の後任に就いた秋美愛法相と対立することとなります。
 昨年1月上旬、秋氏が曺氏に絡む捜査などの陣頭指揮を執ってきたソウル中央地検の幹部ら検察幹部の大規模な配置換えを断行したからです。
 まさに「報復人事」でした。その後、検察は秋氏の周辺の疑惑を捜査。秋氏は昨年11月24日、尹氏の懲戒を請求したのです。

 文氏の検察改革は、懸念すべき方向に向かっています。
 検察から独立し、政府高官らを捜査する機関(「高位公職者犯罪捜査処〈公捜処〉」)を設置するための法律を昨年末に成立させましたが、公捜処は動き出すことができませんでした。その理由は公捜処長の選出ができなかったからです。

 法律には、「トップの選出」には野党側の同意を必要とするという条項があり、これまで野党側の抵抗で選出できなかったのです。
 ところが12月10日、その条項を削除した改正法案を強行採決で成立させたのです。

 当然、野党や保守系メディアは「政府・与党寄りの機関にならざるを得ない」と一斉に反発し、公捜処は与党独裁を生むのではないか、政権が絡む疑惑の捜査を阻止するためではないか、文氏が退任後の検察捜査を阻止するためではないかとの疑念が広がっているのです。
 尹氏の法廷闘争の行方が注目されます。