世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

英、EU離脱後の将来関係交渉、さらに継続

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、12月7日から13日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 米、香港巡り対中圧力を強化 全人代常務委14人を制裁対象に(7日)。金与正氏 韓国外相の発言を非難(8日)。韓国、新捜査機関近く発足=文政権、検察改革を強行へ(10日)。モロッコ、イスラエルと国交合意(10日)。米最高裁、トランプ陣営に大統領選の確定阻止認めず(11日)。英とEU(欧州連合)、貿易交渉の継続で一致~電話首脳会談(13日)、などです。

 英国ジョンソン首相とウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長が12月13日、電話協議を行い、自由貿易協定(FTA)など将来の関係を巡る交渉を継続することで合意しました。
 しかし来年1月からの英国、EU間の貿易・経済関係の混乱は避けられない状況です。

 その背景を説明してみます。

 英国がEUから離脱したのは今年1月31日でした。
 2016年6月に行われた国民投票の結果を受けて、EU条約に基づく離脱期限(2019年3月29日)を目指して協議が行われ、3度延長されてのことでした。

 1月末にEUを離脱した英国が加盟国と同じ扱いを受けられるのは年末までと条約に定められています。これを「移行期間」と言います。

 それまでに(残りは半月)関税ゼロなどを柱とする自由貿易協定ができないと、WTO(世界貿易機関)の規則に従って英国とEU間の貿易で関税が発生し、年明けに経済が混乱に陥ることが予想されます。

 現時点で合意できたとしても、EU内の批准(加盟国による国会での承認)手続きをどう間に合わせるかということ、さらに変更点を企業に徹底させられるかということが課題となります。そのため1月に発効させるには、11月中旬が交渉期限といわれていましたが、大幅な遅れとなっています。

 問題は主に3点です。
 「漁業権」と「平等な競争条件の確保」、そして「合意破りへの対応」です。簡単に説明しておきます。

 まず「漁業権」問題です。
 英国周辺海域は好漁場として知られています。EUの共通漁業政策では、加盟国は割り当てられた漁獲上限を守れば、他国の排他的経済水域(EEZ)でも漁ができるとなっていますが、英ジョンソン政権は、英周辺海域を自国で管理する意向です。

 EUは従来どおり操業する権利を主張しています。特にフランスやオランダなどの漁業関係者にとっては死活問題となる可能性があるからです。

 「公正な競争条件の確保」に関しては、EU側は各種の規制や税制、政府補助金をEUと同等の水準とするように英国に要求していますが、英国は自主的に決定する意向を示し対立しています。

 そして「合意破りへの対応」は、合意が破られた場合の報復関税の在り方などについての合意です。

 実情は、年末までの移行期間終了後、すなわち来年1月以降の「混乱」は避けられない状況となっています。何とか決裂だけは避けようとの協議は継続しようとしていますが、英EU間の自由貿易協定の合意が遅れることは避けられません。

 例えば、合意が遅れれば来年1月から英国とEU間の貿易に税関検査や関税が加わります。物流業界は深刻です。

 6000社以上が加盟する英道路運送業協会は、英EUの国境での手続きに必要となる税関業務の専門家が約5万人も不足すると予測しています。さらに関税がかかることにより、価格が上がり商品の売れ行きは鈍ります。

 今後の協議を見守りたいと思います。