愛の知恵袋 143
「母親の小言はなぜ長いのか」

(APTF『真の家庭』264号[2020年10月]より)

松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)

妻の小言が多くて困るという夫たち

 ある夫婦セミナーのあと、夫たち数人と談笑した時のことです。一人ご主人が、「ところで、うちでは妻の小言が多くてね。うんざりします。子供を叱る時も、なぜもっと、バシッとひと言で済ませられないんでしょうかね」と言いました。

 すると何人かの夫たちが、「ほーお、うちと同じですね」「うちでもよくありますよ。妻が子供に小言を言い始めると、たいがい娘と言い合いになって、どっちの味方をしたらいいのか困ってしまうんですよ」などと、口々に言います。

 どうやら同じようなことが、多くの家庭で起きているようです。

 母親が子供を叱り、小言を言うのはごく普通のことです。細かいことでも気が付いたらすぐにたしなめるのは、教育やしつけに真剣であれば当然のことです。

 しかし、叱り方が男性とは違って、くどくどと長くなることが多いようです。

 父親はあまり細かいことには口を出さず、見るに見かねた時だけ、「いい加減にしなさい!」と一喝して終わり…という人が多いようです。

 もちろん、中には父親でも細かいことまでいちいち叱っているという家庭もあります。その場合は、母親が“四角い部屋を丸く掃く”ような大雑把な性格で、代わりに叱らざるを得ないという状況である場合か、あるいは、父親本人の性格が頑固一徹だとか、神経質であるとか、教育癖が身に染み付いているといったケースに限られるようです。

母親の小言が長くなる理由

 心療内科医でカウンセラーの姫野友美先生によれば、母親が子供に対して小言が多くなり、時にはヒステリックになってしまうのには、主に3つの理由があると言います。

 第1の理由は、母親が子供を“自分の作品”と思う気持ちが強いため。

 子供の評価は自分の評価と感じるので、子供が言うことを聞かず悪さをしていると、「自分の子育てがうまくいっていない」という思いにかられ、イライラします。

 結局、ヒステリックに子供を叱りつけるのは、自分に対する怒りを子供にぶつけているに過ぎないのかもしれません。

 第2の理由は、自分の大切なテリトリーを荒らされたくないという気持ちが強いため。

 いわば、巣作りの本能です。自分が大切に作り上げてきた愛の巣=家庭が、子供たちのわがままで生活リズムが崩されたり、好き勝手な行動によって荒らされることに我慢ができないのです。

 第3の理由は、母親本人の精神状態の問題です。

 女性は男性に比べて神経伝達物質のセロトニンが少なく、神経が過敏だと言われています。特に生理の前はセロトニンの分泌が少なく、イライラしたり、ひどく落ち込んだりするので、ちょっとしたことで怒りっぽくなり、口うるさく言うことになってしまいがちです。

 さらに、怒り出すと自分でも制御できなくなってしまう傾向があるので、つい、家族も巻き込まれてしまいます。

父親は母子戦争を仲裁する平和大使に

 ところで、母親の小言に反応して派手な言い合いをするのは、息子より娘のほうが多いようです。息子の場合は「うるさいなあ!」と言って部屋から出て行ってしまいます。

 しかし、娘のほうは母親と同じ女性脳の持ち主。黙ってはいません。「そんなのおかしいんじゃない?」と言って真正面から反論してくるのです。そこで激しい言い合いになることもあります。

 そんな場面に遭遇すると、父親は「あわや、家庭崩壊か」とハラハラします。ときには、ついカッとなって自分も母子戦争に参戦し、正義の味方になって「あんたが悪い!」と爆弾を投げたくなったりしますが、それは賢明な策ではないようです。

 母と娘は反発し、派手に口喧嘩をしたりしますが、実は、水面下での女性同盟は意外と強く、言いたいだけ言った後はケロッとして、仲直りもできてしまうのです。

 ですから、そんな時、父親は間違っても妻と娘の争いに乗り込んで一方の肩を持つようなことをしてはいけません。あとで、女性同盟軍から「お父さんはねえ…」とつるし上げに遭います。

 父親としては、妻の精神状態をよく理解してあげて、怒りを受け流してあげ、「サブッ」と言われるようなギャグでもよいから一発演じて場を和ませたり、「まあ、まあ」と言って和解を促して、友好条約を結ばせる平和大使の役目を果たすのが賢いおやじの努めのようです。

参考文献:「なぜ男と女は4年で嫌になるのか」姫野友美著・幻冬舎刊

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