愛の知恵袋 142
命の尊さと愛し方を学ぼう

(APTF『真の家庭』263号[2020年9月]より)

松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)

近頃増えている「危ういタイプの人」

 最近、世の中で何となく危ういタイプの人達が散見されます。それは、大人びた思考と幼稚な行動が入り混じったような危うさなのですが、その「危うさ」には二つの面があります。

 第一は、「言うことと行動がアンバランスである」という危うさです。ネット・メディア時代の影響で、特定の知識は豊富で立派なことを言うが、現実の家庭や職場での生活では、人間関係が全く不器用というタイプです。寛容さや忍耐力、協調性や適応力が乏しいためです。

 第二は、「手加減ができない」という危うさです。自分の意見が否定されただけで憤慨してネットで執拗に攻撃する。ちょっと注意されただけなのに異様に怒って乱暴をする。上司から叱られると必要以上に落ち込んで出社拒否になる。片思いの相手から振られたのを恨んで凶行に及ぶ…というような事態が増えています。感情を制御できず、極端な言動に走るのです。

 これらは、生まれながらの性格だけではなく、育った環境や育て方も大きく影響しています。

メディア媒体に偏らず、人と交流する習慣を

 第一の危うさを招かないためには、子供の成長過程で、「既製品の娯楽」だけでなく「手づくりの娯楽」を増やすことです。つまり、ゲームや遊園地など出来合いの娯楽だけに頼らず、親子で何かをつくるとか、何かを採りに行くとかする「手作りの遊び」を増やすのです。

 また、スマホ、パソコン、テレビの画面ばかり見ていないで、家族や親せきや友達との“生(なま)の人間交流”を持つ機会を多くすることが大切です。その積み重ねが、大人になった時に職場や家庭での人間関係のコミュニケーション能力を高めることになります。

 このことを考えると、現在直面しているコロナ感染予防生活の長期化は、「最も基本的な人間関係が失われる危機」に直面していると言えます。私たちは知恵と工夫を凝らして、「コロナを防止し、且つ、人間関係を失わない」という新しい生活様式を創り出していく必要があります。

植物を育てながら、「頃合い」「手加減」を学ぶ

 第二の危うさを招かないためには、成長過程で“命の尊さと繊細さ”を学ぶことです。そのためには、小さい時から自然と交わり、植物や動物を熱心に育てることが効果的です。

 園芸の世界では“水やり3年”という言葉があります。植物は水やりを忘れるとたちまち枯れてしまいます。また、サボテンなどやり過ぎてダメになる種類もあります。水やりの「頃合い」(タイミング)と「手加減」(適量)が分かるのに3年かかるということです。空襲が激しくなった東京から故郷に帰った私の両親は、洋服店を立ち上げ、紳士服の縫製販売をしましたが、農家から畑を借り、わが家で食べる全ての野菜は父が栽培してくれました。

 大根、人参、ごぼう、豆類、イモ類、カボチャ、玉ネギ、白菜、キャベツ、キュウリ、なす、トマト、まくわ、スイカ、とうきび…そして華道材料の花まで丹精込めて栽培していました。私も小さい時からそんな父の畑仕事を見てきたので、自然と園芸が好きになりました。今はマンション暮らしですが、ベランダに緑の木や花があるだけで心が和みます。5歳と2歳の孫たちも水やりをします。水遊び程度ですが、毎日、「やりた~い!」と言ってせがんできます。

動物を飼育して、愛し方を学ぼう

 動物の飼育はもっと高度で繊細です。より深い愛情と技術が必要です。犬、猫はもちろん、鳥、魚、昆虫にしてもエサやり・掃除など大変ですが、可愛らしくて家族の一員になってくれます。

 今思い出してみると、私も小さい時から高校時代まで、実にいろいろな動物を飼いました。魚類では、金魚やヒブナのほか、庭に小さな池を作ってもらい、池や川からフナ、鯉、ドジョウ、ゲンゴロウなどを採ってきては飼いました。昆虫では、当時盛んだった昆虫採集をよくしましたが、夏にはカブトムシやクワガタをはじめ、ホタルやクツワムシなども採ってきて飼いました。

 鳥類で熱心に飼育したのは「メジロ」です。鶯(うぐいす)に似たきれいな小鳥ですが、鳥もちで捕って竹の籠で飼うのです。下宿で過ごした高校時代には、愛鳥の十姉妹(じゅうしまつ)が孤独を癒してくれました。

 犬は大好きで、「メリー」という名のかわいい小型犬がわが家で一番の人気者でした。

 最後は尾の長い猿です。父の知人が南洋航路の船長で、インドネシアで譲り受けて飼っていましたが、「世話をし切れなくなった」というので引き取りました。すぐになついて、よく海辺に散歩に連れて行きましたが、まもなく、彼は頭を強く打って脳震盪(のうしんとう)を起こし、手当ての甲斐なく母の懐に抱かれて息を引き取りました。家族みんなが目を赤くして泣いていたのを覚えています。

 現在では、野生動物の捕獲と飼育には制限がありますが、できる範囲での動物の飼育をすることは、情緒豊かな人間性の育成にとって非常に意義深いことだと思います。

 動物は、私達に命の大切さと、細やかな関心と愛情がいかに必要であるかを教えてくれます。エサやりを忘れ、死なせてしまったりすると、本当に申し訳なく、自分の無責任を恥じ、愛情の足りなかったことを後悔します。そんな経験が、将来、家庭と社会で生きていく時に、人への思いやりにつながっていくのだと思います。

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