愛の知恵袋 141
更年期障害を上手に乗り越えよう

(APTF『真の家庭』262号[2020年8月]より)

松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)

仲良し夫婦を破局寸前に追い込んだ魔物

 50代の男性から相談を受けた時のことです。「うちの夫婦はオシドリ夫婦とまではいかないにしても、仲の良いほうだと思ってきました。ところが、ある時から急に妻の口数が減り、何かにイライラしていて、ちょっとしたことで怒りだしたり、きつい言い方をするようになりました。私も歳のせいか最近は疲れがひどく体調の悪い時もあって、つい、カッとなって喧嘩になってしまいます。そんなことが続くうちに、もう、何もかもが嫌になって、食事も進まず、ふさぎ込んでしまうことが多くなり、会社も休みがちになりました。そんな姿を見かねたのか、近くに住んでいた妹が私を心療内科に連れて行ってくれました。そうしたら“うつ病”だと言われました。医者の話だと、妻のほうもその傾向があるらしいんですが…」

 結局、このご夫婦は、最初に妻が、続いて夫までが更年期障害になり、心身不調に陥って心の余裕を失い、夫婦間の衝突が増え、破局寸前まで行ってしまったというのが実情でした。

女性の更年期障害で起きること

 日本薬科大学教授で「ひめのともみクリニック」院長として多くの男女のカウンセリングに当たってこられた心療内科医の姫野友美博士によれば、女性の更年期障害は「閉経をはさんだ前後10年」に起きやすいそうです。日本人女性の平均閉経年齢は5051歳と言われているので、40代半ばから50代半ばに最も多発するということになります。

 卵巣の老化と女性ホルモンであるエストロゲンの激減によって、自律神経の働きが低下して不快な症状が一挙に出てきます。更年期障害の三大症状と言われるのが、のぼせ、ほてり、発汗ですが、その他にも頭痛、だるさ、肩こり、腰痛、手足の冷え、イライラ、気分の落ち込み、動悸、不眠などが起こります。

 更年期障害には個人差があって、気が付かないうちに過ぎてしまう軽い人もいれば、本当のうつ病になってしまう人もおり、期間も1年で終わる人もいれば10年も続く人もいるようです。また、原因は閉経だけではなく様々な要因が複雑に絡み合って起きる症状らしく、必ずしも閉経を迎えなくても更年期特有の症状が現れる人もいるので、注意が必要だといいます。

 姫野先生は、この時期について、「夫はうろたえたり嫌がったりせずに、妻のつらさを十分に理解するように努めることが大切です」と言っておられます。

男性の更年期障害って、どんなもの?

 ところで、長い間、更年期障害というものは男性には関係ないと思われていましたが、近年の研究で、実は、男性にも更年期障害があるということが明らかになってきました。男性の場合の症状は、だるい、疲れやすい、やる気が出ない、気分が落ち込む、よく眠れないなどの精神的な抑うつ症状が多く、次いで、女性と同様に、発汗、ほてり、のぼせ、耳鳴り、頭痛、肩こり、痺(しび)れなどの身体症状も見られるといいます。

 男性の更年期障害は、男性ホルモンのテストステロンが減少することが引き金になるようですが、その原因となるのが、加齢、過重なストレス、不規則な生活、睡眠不足、酒の飲みすぎ、喫煙…などであると言われています。

 年齢的には、50代をピークに40歳から60歳くらいまでに起こりやすいようです。この時期は成長ホルモンの分泌が低下して筋肉量が落ち、急に体力が衰えてくるのも原因の一つと言われます。更に、テストステロンの減少はメタボを誘発し、動脈硬化を促進するので要注意です。

 姫野先生は、「夫が急に精神的に落ち込み、様々な身体的不調も訴えるようになった時、妻は『何よ、なさけない。しっかりして!』と夫の尻を叩いて叱咤激励するだけで終わらず、男性更年期障害を疑って専門医に連れて行ってあげてほしい」と言います。

 男は自分から医者に行こうとせず、妻のおせっかいで救われたというケースが多いそうです。

 更年期に夫婦関係が悪化して熟年離婚に至ることもあるのですから、賢明な対処が必要です。

更年期を乗り切って、もっといい夫婦に

 姫野先生によれば、更年期障害にはホルモン補充療法を中心に様々な治療法があるそうです。抑うつ状態のひどい場合は抗うつ薬もあるし、他に、漢方薬や栄養療法もあるそうです。

 また、好きな趣味やスポーツをして、ストレス解消に努めることも効果があります。

 ウォーキング、スイミング、ウエイトトレーニングなどの運動をすれば、自律神経系や内分泌作用が活性化され、男性・女性ホルモンの分泌増加にも役立つようです。

 そして、夫婦がお互いに手を取り、いたわり合って、「二人で力を合わせてこの辛い時期を乗り越えていこう」という気持ちを持つことが、何よりも効果が大きく大切なことと言えます。

参考文献:『なぜ男と女は4年で嫌になるのか』姫野友美著・幻冬舎刊

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