世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

共産党の出先機関のような日本学術会議

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、10月5日から11日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 菅首相、日本学術会議任命拒否認める(5日)。トランプ米大統領退院(5日)。ポンペオ米国務長官が訪日、日豪印外相と会談(6日)。独、慰安婦・少女像の設置許可を取り消し(8日)。米大統領選、15日の討論会は中止に(9日)。北朝鮮~朝鮮労働党創建75周年、午前0時に軍事パレード実施(10日)、などです。

 今回は日本学術会議についてです。
 菅首相は9月28日、日本学術会議によって推薦された105人の新会員のうち6人の任命を見送りました。猛抗議したのは日本共産党でした。一連の騒ぎの発生源です。

 共産党は機関紙「しんぶん赤旗」で10月1日から連日一面で、関連批判記事を掲載しています。
 「1日から任期が始まる日本学術会議の新会員について、同会議が推薦した会員候補のうち数人を菅義偉首相が任命しなかったことが30日、本誌の取材で分かりました」(10月1日付)としています。さらに、「菅首相による恣意(しい)的な人事が明らかになったのは初めてで、学問の自由に介入する首相の姿勢が問われます」(同)と批判しました。

 まず日本学術会議について説明しておきます。
 同会議は、全国87万人の日本の科学者を代表し、科学を行政や産業、国民生活に反映、浸透させることを目的に昭和24年(1949年)に設立されました。連合国軍による占領下で発足しました。

 組織や会員については日本学術会員法に定められています。日本学術会議は、政府から独立して職務を行う特別な機関として、政府に対する政策提言などを行うことを要請されています。

 会員については、日本学術会議からの推薦に基づいて総理が任命する仕組みです。特別職の国家公務員となり、本来の職業とは別に手当てが支給され、同会議を運営する経費として毎年10億円ほどの予算が充てられているのです。

 菅首相は10月5日に会見し、6人が見送られたことについて、「総合的、俯瞰(ふかん)的な活動を求めることにした」と述べたのです。その意味を説明します。

 日本学術会議は1950年、軍事関連の科学研究には一切関わらないという声明を発表しました。会員への指示のような声明だったのです。
 当時の日本は敗戦からまだ5年、独立も果たしていませんでした。反戦、反軍隊の風潮が非常に濃い時期でした。

 その後、1967年に同じ趣旨の「軍事目的のための科学研究を行わない」という声明が出されていますが、2017年にも「軍事的安全保障研究に関する声明」を発表したのです。

 「研究機関における軍事的安全保障にかかわる研究、すなわち、軍事的な手段による国家の安全保障にかかわる研究」に反対するというものでした。専守防衛のための軍事的手段に関する研究をも否定したのです。

 ところが日本学術会議は2015年、北京の中国科学技術協会において、大西隆日本学術会議議長(当時)と韓啓徳中国科学技術協会会長との間で、両機関における協力の促進を図ることを目的とした覚書を締結しています。

 中国科学技術協会は中国国防部、人民解放軍と連携を取っている機関です。日本学術会議は、日本国内では軍事研究を禁じておきながら、中国の軍事研究には協力するという、非常に倒錯した組織だということになります。この点が、菅氏が「総合的、俯瞰的な活動を求める」必要があると判断した理由です。

 さらに日本共産党機関紙「しんぶん赤旗」に頻繁に日本学術会議の現議長、元議長が登場します。さらに元議長が共産党の街宣カーで応援演説を行っています。まるで共産党の「機関」に見えるのです。
 「組織」そのものを問題にしなければなりません。