世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

米最高裁判事にバレット氏が承認される衝撃

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は10月12日から18日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 米最高裁判事人事でバレット氏の上院公聴会始まる(12日)。中国新華社が「習近平思想」で人民教育との条例制定内容明らかに(12日)。日本学術会議を議論する自民PT(プロジェクトチーム)が初会合(14日)。iPS視細胞、神戸の病院で世界初の移植実施判明(15日)。中国・常務委員会、輸出管理法案を可決、成立、12月施行(17日)、などです。

 米国の最高裁判所判事でリベラル派の代表だったルース・ベイダー・ギンズバーグ判事が9月18日、転移性膵臓(すいぞう)がんのため、ワシントンの自宅で87歳で亡くなりました。

 トランプ大統領は26日、空席となった連邦最高裁判事に保守派の女性、エイミー・バレット高等裁判所判事(48歳)を指名しました。
 トランプ氏は「戦争の判断を除けば、最も重要な大統領の職務」であると述べています。

 確かにそうなのです。CNNテレビの8月中旬の世論調査では、11月の大統領選の投票先を決める上で最高裁人事が「極めて重要」「とても重要」との回答は合計で69%でした。(「日経」9月27日付)

▲アメリカ合衆国最高裁判所(ウィキペディアより)

 これまで、最高裁の判決が米国社会に大きな影響を及ぼしてきました。
 1973年には女性が中絶を選択する権利を容認する判断を行い、2015年には同性婚を合衆国憲法上の権利と認めると判断したことなどがあります。

 米国の「法律」について説明しておきます。法律には連邦法と州法があり、裁判所も連邦裁判所と州裁判所の二重構造になっています。

 連邦裁判所は、憲法や条約、連邦法が定める知的財産や破産に関する訴訟を扱います。州裁判所は、刑法や民法、商法など暮らしに身近な法律の多くを扱うのです。

 さらに連邦裁判所は最高裁、控訴裁(高裁)、地裁の三審制となっており、最高裁はワシントンD.C.に長官と判事8人の計9人で構成されています。判断は多数決によってなされます。
 高裁は、首都と国内11カ所などにあり、地裁の判決、決定に対する上訴(控訴、抗告)を扱い、地裁は各州の主要都市や米領など計94カ所にあります。

 最高裁判事に指名されたバレット氏は10月12日から15日まで、上院司法委員会の公聴会で委員からの質問に対する見解を述べました。
 100人が定数の上院で、共和党が53議席を持っています。今後22日の委員会採決を経て23日から上院本会議で審理し、11月3日の大統領選の前には承認される見通しです。

 バレット氏が承認されれば、保守派は6人でリベラル派が3人になります。
 今後、人工妊娠中絶や銃の保有権利問題で保守派寄りの判断が下される可能性が高まるとみられます。大統領選挙後の混乱に対しての最高裁判断の可能性もあります。

 最高裁判事には任期も定年もありません。引退するか死亡するまで勤められるのです。影響は何十年も残ることになるのです。