世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

コロナ禍を巡って国連総会で米中「激突」

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は9月21日から27日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 国連総会で一般討論ビデオ演説~米中首脳互いに強く批判(22日)。日英首相が電話会談、安保協力強化で一致(23日)。香港当局、民主活動家・黄之鋒氏を逮捕(24日)。韓国国防省、北朝鮮が韓国男性を射殺し遺体焼却と発表(24日)。菅首相、韓国大統領と初の電話協議~徴用工で対応求める(24日)。菅首相、習主席と初の電話会談(25日)。菅首相、国連総会でビデオ演説。トランプ大統領、米最高裁判事に保守派バレット氏を指名(26日)、などです。

 9月21日、国連本部で創設75周年記念会合が開かれ、翌22日から国連総会での一般討論演説が始まりました。「コロナ」の影響により、会場となる国連本部の総会議場への入場は国連大使など各国一人ずつに制限され、議場内の大型スクリーンで演説などが上映される異例の形式で行われています。

 初日には米国のトランプ大統領と中国の習近平主席が演説しました。
 深刻な対立が一層浮き彫りになっています。トランプ氏の演説はおよそ7分という異例の短さでしたが、厳しい中国批判の内容でした。

 「感染の初期、中国は国内で都市封鎖を行う一方、国外への航空便を認め、世界中に感染を広げた」と述べ、中国を名指ししました。さらに世界保健機関(WHO)についても、「事実上、中国にコントロールされている」と訴えたのです。

 一方、習氏は「人類は今、新型コロナウイルスと戦っている。われわれは団結を強めなければならない」と述べ、「ウイルスを政治問題化したり、(特定の国に)汚名を着せたりすることに反対しなければならない」と、名指しは避けながらも米国を「一国主義」として批判したのです。

 さらに習氏は、「いかなる国も世界での自分のやり方を押し通し、覇権を握ることはできない」とし、「われわれは一貫して多国間主義の実践者であり、国際法を基盤とする国際秩序を守る」と強調しました。

 トランプ氏の中国批判発言の激しさに驚きますが、さらに違和感と不信感が膨らんだのが習氏の発言でした。

 そもそも中国こそが「一国主義」であり、国際ルールを無視し、現状を変更している存在であるからです。香港における「一国二制度」の国際公約の反故、南シナ海における中国の領有権の主張を根拠なしとしたハーグの仲裁裁判所の裁定を無視しての実効支配がその証左です。

 胡錦濤前国家主席は2003年10月、同年7月に収束したSARS(重症呼吸器症候群)の対応について、バンコクでの記者会見で次のように語りました。

 「感染症を制御できず、ましてや国際社会に拡散させることになれば、われわれは中国の国家指導者として13億人の中国人民と各国人民に申し訳が立たない」

 そしてグロ・ハーレム・ブルントラント世界保健機関(WHO)事務局長(当時)は、「初期の段階で中国政府がもっとオープンだったら、事態はより良くなっていただろう」と中国政府の情報公開の遅れを公然と非難しました。

 独裁国家が「諸民族の中で聳(そび)え立つ」(2017年、習近平主席の演説)ことを狙った工作活動を展開している事実を軽視してはならないのです。

 トランプ氏の主張を支持します。習氏には胡錦涛氏の謙虚さが必要です。