世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

米主導、反イランで動き出す中東秩序

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は914日から20日までを振り返ります。

 この間以下のような出来事がありました。
 韓国検察、不正会計疑惑で慰安婦団体前代表を起訴(14日)。イスラエル、UAE・バーレーンと国交正常化~米で署名式(15日)。総理大臣指名選挙で自民党の菅義偉総裁が第99代の総理大臣に選出される(16日)。米国務省のキース・クラック次官が台湾訪問(17日)。立憲・枝野代表、デジタル化政策を批判(19日)、などです。

 米ホワイトハウス南庭で915日、4カ国の代表(米国、イスラエル、アラブ首長国連邦〈UAE〉、バーレーン)が米国の仲介による歴史的な国交正常化合意書に署名しました。

 パレスチナ問題を巡ってアラブとイスラエルとの対立が続いてきましたが、ここにきて関係諸国に大きな変化が起きつつあります。しかし、中東和平の当事者であるパレスチナ代表の姿はそこにはありませんでした。

 パレスチナ問題とは、ユダヤ民族が1948年に建国した時に生じた、土地を追われたパレスチナ人(パレスチナ難民)との間で抱える紛争や対立問題をいいます。
 パレスチナ難民を支持するアラブ諸国とイスラエルとの間で、これまで4度の戦争が起きており、イスラエルは1967年の第三次中東戦争でヨルダン川西岸や東エルサレムを占領し、それは今も続いています。

 トランプ大統領は15日、演説で「新たな中東の夜明けを迎える」と述べて合意の意義を強調し、他のアラブ諸国も追随するとの予測を示しました。
 「少なくとも56カ国がすぐに追随するだろう」(オマーン、スーダン、モロッコ、サウジ、カタールなど)と述べ、特にサウジアラビアが「適切な時期に加わるだろう」と強調したのです。

 しかし現在の変化はイラン包囲網の要素が大きく、パレスチナ問題の「棚上げ」などの課題をはらんでいることも事実です。
 アメリカが注目するサウジアラビアは、「パレスチナ問題の包括的な解決」を求め、イスラエルとの国交正常化については慎重な姿勢を示しています。

 パレスチナ自治政府のアッバス議長は同日、「米国とイスラエルが、パレスチナの独立国家樹立の権利を認めない限り、この地域における平和は実現できない」と訴えています。

 トランプ氏の狙いは明白です。これらの成果を外交的勝利として訴えて、大統領選にもつなげる狙いがあるのです。

 トランプ氏は署名式で、「イスラエル史上、これまでに結ばれた和平合意は二つだけだ。われわれは1カ月の間に二つも成し遂げた」と強調しました。
 アラブ諸国中で1979年にエジプトと、さらに1994年にはヨルダンとイスラエルは国交を結んでいます。

 まだ課題は残されていますが、イスラエル防衛とイラン包囲網構築の二大方針に基づく政権の中東戦略が歴史的な前進を果たしたことだけは確かです。

 今後の展開に注目していきましょう。