青少年事情と教育を考える 130
不妊治療と若い世代に必要な教育

ナビゲーター:中田 孝誠

 菅政権は重要政策の一つとして、不妊治療への支援を打ち出しています。
 少子化対策の一環として、1回数十万円の費用がかかる不妊治療に保険を適用し、子供を希望するカップルを支援するというものです。

 現在も一部の治療には保険が適用されていますが、より多額の費用がかかる体外受精や顕微授精などには保険ではなく助成という形で支援がなされています。ただし女性の年齢が43歳まで、所得が730万円未満といった制限があります。

 これらに保険が適用されれば、経済的負担は軽減されます。実際に治療を受けるカップルにとって救いになることは確かです。

 課題は、保険料を納める国民の幅広い理解が必要であることや、保険を適用するからには病院によって治療の技術にばらつきがあってはならないといったことも指摘されています。
 それからもう一つ。これは根本的な課題だと言えることですが、若い世代に「妊娠、出産の適齢期」を知らない人が少なくないということです。

 日本で体外受精によって生まれた子供は56617人(2017年)で、この年に生まれた子供全体の16人に1人に当たります。治療件数は過去最多の約448千件でした。ちなみに、日本は不妊治療件数が世界で最も多い国だといわれています。

 日本では晩婚化が進み、女性の平均初婚年齢と第一子出産年齢が年々上昇しています。このことが少子化が急速に進む大きな要因です。

 不妊治療の専門家によると、妊娠や出産がしやすい年齢がいつ頃なのか、日本の若者は他国に比べて基本的な知識が非常に少ないというのです。

 そのため、いつでも子供ができると思い込み、気が付いたら妊娠の適齢期を過ぎてしまう。それでも子供を授かることを願って不妊治療にやって来る。しかし、不妊治療は年齢が高くなるほど妊娠率は低下していきます。

 こうしたことから、妊娠と出産、育児には医学的に最もふさわしい年齢があることを教育の場で伝えるべきという意見もあります。それが若い世代が人生設計を考える上で必要な知識だというわけです(教える内容は年代によって慎重に考える必要はあります)。

 もちろん妊娠や出産を押し付けることはできません。ただ、子供が欲しいと願う若い世代の幸福を思えば、こうした教育も少子化対策の一つとして進めるべきではないかと考えます。