夫婦愛を育む 111
帰省しない子供たち

ナビゲーター:橘 幸世

 志村けんさんの訃報に日本中が衝撃を受けました。彼の番組はあまり見ていなかった私にも、ずっしりくるものがありました。
 それは、彼のお兄さんのインタビューです。見舞いにも行けなかった、死に目にも会えなかった、と聞いてとても胸が痛んだのです。

 大切な人を失うのは言わずもがな、最期の別れができないなんて、こんなに悲しいことはありません。これを自分の家族に置き換えたら、絶対にあってほしくない悲劇です。
 都会にいる子供たちを心配しながらも、祈る以外、どうすることもできません。

 ゴールデンウイークまで1カ月を切った3月末、帰省のためのチケット手配をと、換気の面で新幹線がいいのではなどと書いてLINE(ライン)で送りました。返ってきた返事は「この状況で帰省したらダメでしょ」でした。万に一つ、知らないうちにウイルスを持って帰って、家族に、とりわけ祖母にうつしでもしたら「悔やんでも悔やみきれない」と書いてきました。

 聞けば甥(おい)っ子も、3月の時点で帰省しないと決めたとのこと。さらに、知り合いのお子さんもいったんは帰省のために休みを取ったものの、やはり取りやめにしたそうです。皆、親を思って、家族を思ってのことです。寂しいながらも、その貴い気持ちを受けとめます(緊急事態宣言が出た今では、誰もが帰省を控えることでしょう)。

 連日の感染拡大のニュースに、車窓から桜満開の景色を愛(め)でても、気分は高揚しきれません。家族で密接に過ごす時間が増えたことがストレスになっている人がいる一方、「ソーシャルディスタンシング」といわれる、予防上人と距離をおいて生活することが、精神面でじわじわとこたえてきている人も少なくないでしょう。私の周りにも、元気をなくしている人たちが見受けられます。

 人のぬくもりに触れることは、元気に生きていく上でとても大切ですが、その機会が著しく削がれているのです。家族と暮らす私でも、何となくシャキッとしないのを感じていますので、一人暮らしの人はどんなだろうと思います。

 ある時隣の町内から「一、二、一、二」と大きな掛け声が聞こえてきました。何事かと見てみると、高齢の婦人が一人庭で体操をしています。「誰とも話すことがないから、せめて大きな掛け声を出してるの」とのこと。何とも切ないです。

 いずれ感染は終息します。その時を思って(希望を見て)、今は忍び、できる努力をするのみです。感染のニュースに触れるのは最低限にして(鬱〈うつ〉になる割合が高くなります)、こんな時だからこその感動的なエピソードに力をもらいながら、創意工夫で楽しく過ごすよう努めたいものです。

 医療現場で奮闘しておられるかたがたを思えば、私の努力は小さなものです。でもその小さな努力が、最前線の責任を背負って闘っている人たちを支えることを思って、越えていけたらと思います。