夫婦愛を育む 112
許されてなお…

ナビゲーター:橘 幸世

 現在NHKで海外ドラマ『レ・ミゼラブル』が放送されています。

 私がこの名作を初めて読んだのは、13年前、1年間の投薬治療を開始するにあたって入院していた時でした。時間がたっぷりあるので、まだ読んでいない世界名作の一つも読んでおこうくらいの気持ちで、古書店で購入しました。

 『レ・ミゼラブル』のワンシーンを切り取った『銀の燭台』は、道徳の教科書に載ったり、『放蕩息子』と並んでクリスマス会での寸劇の定番でしたので、それがこの名作の中心と思っていました。が、読んでみて驚きました。その後の物語がもっと深いのです。

 パン一切れ盗んだがために19年牢獄生活をし、刑期を終えて出てきた主人公ジャン・ヴァルジャンを待ち受けていたのは、世間の冷たさでした。そんな彼を一人の司教が教会に温かく迎え入れ、食事とベッドを提供します。

 元徒刑囚ということは気にも留めず、一人の尊い人間として彼に接するのです。が、19年間理不尽な扱いを受け続けて人間不信の塊のようになっていた彼は、泊めてもらった教会から銀食器を盗み出します。

 すぐに捕えられ司教のもとに連れ戻されたジャン・ヴァルジャンに対して、司教はこう言います。

 「戻ってこられて良かった。銀の燭台も差し上げたのに食器しか持っていかれなかったので。これで燭台も差し上げられる」

 罪を罪とされなかっただけでなく、さらに大きな贈り物を受けた彼は、この出来事を現実とは思えず、消化できません。混乱したまま教会を後にし、歩き続けます。

 疲れ果て道端で休んでいた時、一人の少年が通りかかります。少年が誤って落とした銀貨が、彼の足元に転がってきました。とっさにその銀貨を踏みつけて隠すジャン・ヴァルジャン。「その足をどけて。僕のお金を返して」と訴える少年に怒鳴りつけ、彼を追い払います。

 泣きながら去る少年が見えなくなって、ようやく足を動かしたジャン・ヴァルジャンは、足下の銀貨を見ます。まるで彼にじっと注がれた目のようです。我に返り、自分がしたことに気付いた彼は、急いで少年を探しますが、もうどこにも見えません。自分という人間の惨めなさまがはっきり見えた彼は、泣き崩れるのでした。

 そして、そこから正しい道を歩み始めるのです。

 『銀の燭台』の部分しか知らなかった私は、主人公がその後悔い改めて更生するのだと思っていました。が、彼は信じ難いほど大きな愛で許された直後に罪を犯したのです。人間の弱さ・罪深さを見せられたようで身震いしました。

 司教の圧倒的愛、まばゆいほどの大きな光に照らされて、彼は初めて自分の中の醜い部分、影がはっきりと見えたのでした。長い間非人間的扱いを受けてきた彼に光が射すことはそれまでなく、自分の影が見えることはなかったのでしょう。

 神様の圧倒的な愛に触れて、人は本当の意味で自分の罪に気付き、悔い改め、再出発できることを、あらためて見せてくれた物語でした。