青少年事情と教育を考える 106
虐待の背景にある親の愛着障害

ナビゲーター:中田 孝誠

 今回も「愛着」について考えたいと思います。

 児童虐待では「世代間連鎖」が大きな要因になっています。親自身が子供の時に虐待を受けるなどして愛着が形成されないまま成長すると、自分の子供への虐待に及んだり、夫または妻との関係もうまくいかなくなったりする可能性が高くなるというのです。

 海外の研究では、虐待を受けて育った親の少なくとも3割が子供を虐待し、普段は問題がなくても何かのきっかけで虐待に及ぶ親が3割に上るといいます。7割近い親が子供を虐待する可能性があるというのです。

 友田明美・福井大学教授によると、虐待など不適切な養育を受けた人たちは、親になった時、わが子と良好な愛着関係を結ぶことに困難を抱えていることが多く、不安定な親子関係のもとで育った子供は愛着障害を起こしてしまいます。児童虐待の連鎖は、言い換えれば愛着問題の世代間連鎖なのです。

 また、医師の岡田尊司氏は臨床の現場での体験から、愛着障害の最大の困難は、そもそも子育てに対して意欲や熱意を持てないことだ、と述べています。
子供を世話することが苦痛で仕方がない。それは、ありのままの自分を愛してもらえなかったからだといいます。

 そして、子供を保育所などに預ける時間が長くなり、本来は世話をすることで育まれる愛着が育まれなくなったこと、離婚などによる養育者の交代、産院での出産で新生児室が普及したことや、個人主義など価値観の変化も愛着障害の世代間伝播に関係していると述べています。社会全体で考えるべき深刻な問題だというわけです。

 友田教授は、愛着が不十分なまま育ち傷ついている可能性がある親を支援するため、ペアレント・トレーニング(子育てプログラム)という、日常生活の中での子供との関わり方を学び、親子の良好な関係を築いて子供の健やかな成長につなげていく実践を行っています。
 健全な夫婦関係、親子関係を築くことができるよう支援するのです。

 このように、愛着の問題を改善していくことが、児童虐待の予防につながるというわけです。

【参考】
*友田明美『親の脳を癒やせば子どもの脳は変わる』NHK出版新書
*岡田尊司『死に至る病』光文社新書