青少年事情と教育を考える 105
愛着形成と夫婦の関係

ナビゲーター:中田 孝誠

 前回に続き、「愛着」について紹介させていただきます。

 愛着は、子供が乳幼児期に特定の養育者(多くの場合は母親)との間にできる情緒的関係性です。養育者が安全基地になることで子供の中に安心感が育ち、自律性や共感性など子供の健全発達の基礎になります。

 「愛着」の理論を提唱したイギリスの精神科医ジョン・ボウルヴィは、施設の子供たちを観察し、母親との関係が不安定だと子供の将来の発達に重大な影響を及ぼすと考えました。

 ただ、母親との関係を強調することには、母親だけに過度に子育ての負担を負わせ、母親を追い詰めるといった批判もあります。「母親」という特定の人物に限定するのではなく「母性」という捉え方をすべきだというわけです。

 確かに、父親であっても子育てに関わることで愛着に関係している愛情ホルモンのオキシトシンが分泌され、母性的な性質が啓発されるといわれます。また、何らかの理由で母親がいない子供の場合、代わりに特定の養育者がいることで、愛着関係を築くことができます。

 一方で、母親がいる場合は、あくまで母親が子供と安定した関係を築くことができるよう、父親は「母子の関係を守る」立場で支えることが大切だという専門家の意見もあります。

 例えば母親が子供をあやしても泣き止まない時、父親が母親を怒鳴るようなことがあっては、母子を守るとはいえません。母親の大変さを理解し、いたわっていく必要があります。

 そして、子供はまず母親とのつながりを築き、その上で父親や他の家族と関わることで、社会性や感情をコントロールする力を身に付けていくというのです。

 母親の役割を強調することは、議論が分かれるところです。もちろん母親が過度に重荷を感じることがないようにしなければなりません。ただ、母親、そして父親に特別の役割があることは確かです。

 父親が子育てに積極的に関わることで夫婦関係の満足度が高まることが分かっています。子供の愛着を築く中で、夫婦関係の愛情も深めることができるといっていいでしょう。