夫婦愛を育む 96
男性が本気で悩んでいる時は…

ナビゲーター:橘 幸世

 先に本欄「…のために働いているんだよ」で紹介させていただいたGさんと、またお喋(しゃべ)りする機会がありました。

 彼女がある葛藤を抱えていて、もう我慢できない、とご主人に相談した時のことを話してくれました。
 彼女が取ろうとする行動に対して、ご主人が自分の仕事上の経験からいろいろアドバイスしました。その中で、助言以上に彼女の心に残ったご主人の一言がありました。

 「Fさんと本当に合わなくて、彼が社長になったら辞めようと思っていたんだ」
 期せずして飛び出したご主人の本音。65歳まで勤め上げて、過ぎた事だから言えたのかもしれません。その場では無言で聞き流したものの、Gさんは内心とてもビックリしていました。ご主人がそんな思いを抱えながら働いていたなんて、全く知らなかったからです。

 「40代の頃は、時々“ああ、もう辞めようかなぁ”“ねぇ、~さん、辞めていい?”なんて、時々ボヤいていたのよね。本当に辞めたらどうしようって、不安はあったけど、嫌な中、働いてもらうのも申し訳ないから、“あなたの好きなようにしていいよ”って言ってたの。その先のことは主人も考えるだろうから」

 「今にして思えば、ボヤいているうちは、まだ本気度がそれほどじゃなかったってことかもしれない。真剣に考えていた分、言わなかったのかなぁ…。それを聞いて余計に、あの言葉がずっしりくるのよね」

 私は黙って聞いていましたが、あの言葉とは先の記事で紹介した言葉のことだと思いました。現実にFさんが社長になりましたが、ご主人は勤め上げたのだそうです。

 あらためて、男の人の背負っている責任の大きさを感じさせられたエピソードでした。

 一般的に男性は悩んでいる時黙る、ということは以前にも書きました。自分の問題は自分で解決する(解決する能力がある)、相談するとは能力の欠如あるいは弱さの現れであり最後の手段、という思考の男性脳。

 心配をかけたくなくて言わない夫には、妻は笑顔でだまされていたらいいと思います。本当に大丈夫かなどと要らぬ妄想をする必要はありません。

 一方で、どうしようもなくなって問題が明るみに出るまで言えなかった夫たちがいるのも現実です。支え手としての妻は、ちゃんと愛のアンテナを張りながら、そうなる前に打ち明けられる相手となっていたいものです。

 タクシー会社でクレーム対応をしているという年配の男性は、「心が折れそうになる時もあるけれど、孫の写真(職場の机に置いてある)を見て頑張っています」と笑顔で言っていました。

 私たち妻は、心身の疲れが癒やされる、男性にとって守りがいのあるわが家となるよう努めていきたいですね。