夫婦愛を育む 93
構ってほしいけど放っておいてほしい

ナビゲーター:橘 幸世

 ある車のCMで、「近過ぎると疲れるし、離れすぎると寂しいし」というフレーズが出てきます。人間関係における微妙な距離感を上手に言い表していると思いませんか?

 人とのちょうど良い距離感は、個人差がありますし、相手によっても異なります。心理学では、「パーソナルスペース」と呼ばれていて、他者との間で好ましく感じられる主観的距離と定義されていますが、平たく言えば個人の心理的縄張り、といったところでしょうか。

 私がこの言葉を初めて知ったのは、10年ほど前、特別支援学級の先生が行ったプレゼンテーションを通してでした。

 一般的に私たちは、相手とのやり取りを通して、相手に応じた程よい距離感を学習します。発達障害がある人の中には、この距離感を測るのが苦手な場合があって、それが人間関係を難しくする一つの要因となっています。人に触れられるのが苦手な子もいれば、誰彼構わず接近してくる子もいます。先生は図を使って説明するだけではなく、子供同士を実際にいろいろな位置に立たせてみて、どう感じるかを尋ねながら、分かりやすく教えていました。

 全日本女子代表バレーボールチームの元コーチ、アクバシュ氏は、選手一人一人のパーソナルスペースを理解して、「相手の望む距離感を保つようにしている」そうです。良い関係を築き、選手の持てる力を存分に引き出すには、大切なことなのかもしれません。
 
 パーソナルスペースの個人差を心得ていないと、相手を誤解してしまうことがあります。ある程度の距離感を保っていた方が心地よい人は、距離を縮めて親しさを感じたいとアプローチする人から見れば、素っ気なく見え、一緒にいて物足りなさを感じたり、「もしかして自分は嫌われているのかな?」と誤解されてしまったりすることがあるかもしれません。当人はごく自然に振る舞っているのですが…。逆に社交的で誰とでも仲良くなりたい(なれると思っている)人は、「なれなれしい」と敬遠される場合もあるでしょう。

 ある青年の接し方に戸惑い悩んだ人が、結論として、「(彼は)構ってほしいけど放っておいてほしい」と表現していましたが、その人物を知る私はそれを聞いてとても納得しました。うるさくあれこれ言われるのは嫌だけど、全く放っておかれても寂しい…。

 子供の成長を見守る親の姿勢として「つかず離れず」ともよくいわれますね。“いいあんばい”で接することができるよう、心掛けていきたいものです。