世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

サウジ石油施設への無人機攻撃の波紋

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は9月16日から22日までを振り返ります。

 この間、次のような出来事がありました。
 サウジ主導の有志連合、攻撃はイランの武器使用と発表(9月16日)。台湾、ソロモン諸島と断交。中国の圧力が背景に(16日)。トランプ大統領、米補佐官後任に国務省高官・オブライエン人質担当特使を指名(18日)。トランプ大統領、イランへの制裁強化を指示(18日)。台湾、キリバスと断交。中国の圧力が背景に(20日)、などです。

 今回は、サウジアラビア石油施設への無人機攻撃について扱います。
 サウジ内務省は9月14日、国営石油会社の施設2カ所が無人機・ドローンによる攻撃を受けたと発表しました。攻撃は夜明け前、午前4時ごろ。その後イエメンの反政府勢力フーシ派が犯行声明を発表しました。

 まずイエメンについて説明します。
 今、内戦の中にあります。中東で起きた民主化運動「アラブの春」の動きがイエメンにも広がり、その結果、ハディ暫定政権が発足。支持基盤はイスラム・スンニ派でありサウジアラビアが支援しています。その政権に不満を持つシーア・フーシ派との衝突が激化し、内戦状態が15年以上続いているのです。
 シーア・フーシ派を支援しているのはイランです。国連などの報告によれば、内戦による死者は1万人を超え、数百万人が飢餓状態にあるといわれているのです。

 これまでも、フーシ派によるサウジの石油関連施設などへの攻撃が繰り返されていました。今年5月、サウジ国内を走る石油パイプラインを攻撃。8月にはシェイバー油田を無人機・ドローンで攻撃したのです。

 特に8月の無人機攻撃は世界に衝撃を与えました。1200キロもの長い距離を飛行し、正確に標的に攻撃を加えることに成功したからです。イエメンからの飛行経路はほとんどが無人の砂漠地帯で、長い距離を飛ぶことを可能にしたといわれています。

 もう一つの衝撃は、サウジのミサイル防衛システムは能力を発揮できなかったことです。ミサイルに比べ、中型の無人機は製造やメンテナンスのコストが格段に低いのです。武器の購入に巨額を投じてきたサウジの防衛は無力さをさらけ出してしまったのです。世界で最も厳重なはずの防御を、アラブ辺境の武装集団が破ることができたという事実が波紋を呼びました。

 米政府は、攻撃について「イラン、イラク以外から実行されたと考えることはとても難しい」とし、攻撃はサウジの南部のイエメンではなく、北のイランやイラクから巡航ミサイルが発射された可能性があると述べています。

 商業衛星写真などをもとにサウジ施設の19カ所が攻撃を受けたと指摘し、その全てがイランやイラクの方角から攻撃を受けたというのです。
 フーシ派は10機のドローンで攻撃したと主張していますが、「19カ所を10機で攻撃することはできない」として、理屈に合わないと批判しました。

 米エスパー国防長官は20日、サウジへの米軍増派の承認を大統領から得たことを発表しました。国連総会での関係各国の動きが注目されます。