世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

日米が新貿易協定締結で合意~同盟維持にはプラスに

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は9月23日から29日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 韓国検察、曺国法相の自宅を捜索(22日)。米大統領、国連総会に合わせた会合で「宗教迫害に終止符を」訴える(23日)。イスラエル総選挙の結果、反首相派が第一党、大連立模索(25日)。日米、貿易協定に最終合意、首脳会談で確認文書に署名(25日)。米、香港人権法案を可決(上下両院の外交委)(25日)。中国とキリバスが国交、建国70年で外交成果誇示(27日)、などです。

 今回は日米貿易交渉について扱います。
 安倍晋三首相とトランプ大統領は9月25日、ニューヨークで首脳会談を行い、新しい貿易協定交渉の最終合意を確認する共同声明に署名しました。
 昨年9月から本格的な交渉が始まり、1年間で決着を見たことになります。通常の通商交渉からすれば異例の早さでした。

 合意内容は、米国が特に重視する牛肉や豚肉の輸出については日本が譲歩し、関税をTPP(環太平洋パートナーシップ協定)水準まで引き下げます。ただ、コメなどの農産物では、日本は市場開放の対象をTPP水準より狭めるよう要求し、米国側に受け入れさせました。

 再選をかけた大統領選を来年に控えるトランプ氏は、米国内の雇用を増やすことや貿易赤字の削減をうたい、農産物の輸出増と自動車産業の保護を考えました。
 当初、トランプ氏は、米国の産業基盤を脅かす安全保障上の脅威であるとして、日本車への追加関税の発動も検討するとして、日本側に圧力をかけました。

 焦点は、追加関税を防ぎながら、自国の農業を守ることに重点を置くものとなりました。結果として、米国に日本車への追加関税を控えさせる言質を、合意文書に盛り込むことに成功しました。

 評価は分かれています。
 厳しく見る人は、農業分野で米国に対して譲歩したにもかかわらず、米国が日本からの自動車と自動車部品にかけている関税の撤廃は実現できなかった点などを指摘しています。

 関税の撤廃率が総貿易額の60%台にとどまり、世界貿易機関(WTO)が基準とする90%に届かなかったことも指摘されています。

 しかし総合的に見れば、合格点を挙げなければなりません。
 渡部恒雄・笹川平和財団上級研究員は、日本は米国に通商面で譲りながら「日米でスタンスの異なる問題で政策的な自由を確保」することができた。今後、「国際秩序維持に前向きな方向に米国を誘導して、世界における存在価値を高めることもできる」(「読売」9月27日)としています。

 日米でスタンスの異なる政策的な問題としては、イラン問題への対応を挙げていますが、そのとおりです。
 日米同盟の維持は、世界の平和と繁栄の基盤なのです。