世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

ボルトン氏の米大統領補佐官辞任、分かれる評価

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は9月9日から15日までを振り返ります。

 この間、次のような出来事がありました。
 北朝鮮高官、米国と非核化協議「用意」と発言(9月9日)。米国家安保大統領補佐官、ボルトン氏辞任(10日)。米財務省、北朝鮮ハッカー集団を制裁指定(13日)。サウジ石油施設にドローン攻撃、イエメンの反政府武装組織フーシ派が犯行声明(14日)、などです。

 今回は、ボルトン氏の大統領補佐官辞任について扱います。トランプ大統領が9日夜、ボルトン氏に辞任を迫り、10日朝に辞表を受け取ったといいます。
 国家安全保障担当補佐官の役職は、米外交安保政策の司令塔。トランプ政権においてこれで3回目の解任となります。

 今年に入り、ボルトン氏が政策を巡ってトランプ氏と対立することが増えてきました。北朝鮮、イラン、そして今回の決定の引き金となったのが、アフガニスタンの反政府勢力タリバンとの和平協議だったとみられています。

 トランプ氏は、米軍のアフガニスタンからの段階的な撤退を模索し、ワシントン郊外の大統領山荘キャンプデービッドにタリバン幹部らを招待する計画を進めようとしました。ボルトン氏は強く反発。「タリバンを信用してはいけない」と主張したというのです。

 ボルトン氏の補佐官就任は昨年4月でした。トランプ氏のイラン核合意からの離脱を支えました。しかし今年に入り、北朝鮮非核化交渉を巡り、ボルトン氏は強く「リビア方式」を主張しました。完全非核化後の制裁解除という方式です。ビーガン北朝鮮政策特別代表が進めた合意内容を否定するものでした。

 結局、ボルトン氏の強い働き掛けで2月の米朝首脳会談は決裂することになったといわれています。その後、二人の溝が深まっていくこととなり、6月の板門店・米朝首脳会談にはボルトン氏の姿はありませんでした。

 トランプ氏は今、最優先課題を2020年の大統領選挙での再選勝利としています。これまでの外交、安保、貿易などのディールの成果が求められています。
 ボルトン氏の強硬路線は圧力を掛けるという面では有効でも、成果を上げることができないとの懸念が広がっていたのです。ボルトン氏に対する評価は分かれています。

 今後の展開を予想してみます。イランや北朝鮮などが、ボルトン氏の辞任で米国の軍事介入の可能性が減少したと判断し、交渉を優位に進めるための挑発行動が増える懸念があります。
 特に心配なのは、米国が北朝鮮などとの交渉で安易な妥協を重ねることです。北朝鮮の要求に応じる形で骨抜きの「非核化」合意に傾斜する恐れが強まっていることは確かです。

 日米の連携が極めて重要です。特に安倍首相がトランプ氏を支えて結束し、北朝鮮の完全非核化実現に向けて強く歩むことが求められています。