世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

香港長官、条例改正案の撤回を表明

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は9月2日から8日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 中国の王毅外相、平壌訪問4日まで(2日)。香港、ゼネストや中高生の授業ボイコット(2日)。香港、林鄭月娥長官が条例改正案の撤回を表明(4日)。日ロ首脳会談(5日)。韓国の文在寅大統領側近、曺国氏の国会聴聞会(5日)。ドイツのメルケル首相訪中、香港「平和的解決を望む」と表明(6日)、などです。

 今回も香港問題を扱います。
 林鄭月娥長官は4日夕刻、公邸に親中派の立法会議員らを緊急招集したのち、テレビ演説を行いました。

 長官は、「この2カ月間余りで起こったことは香港人に衝撃と悲しみをもたらした」と語り掛け、逃亡犯条例改正案を正式に撤回することを表明しました。

 香港政府の後ろ盾である中国にとって、大きな挫折といわなければなりません。中国本土で強固な権威を築いている共産党政権にとって、自国の一部である香港で、自ら指示した法案が覆されたのです。

 決断の背景には、10月1日の建国70周年式典を成功させるためには、何としても混乱を収めたいとの政権の判断があります。また今の香港情勢が、トランプ米政権にとって中国との貿易戦争への牽制材料になっていることと、来年の台湾総統選挙に向け、独立志向の強い民進党政権を勢いづかせているという現実もあります。

 米国議会にも香港問題への対応で動きがあります。
 米上院のシューマー院内総務(民主党)は、9月5日、香港情勢に関して、民主化勢力の支援に向けて中国の習近平体制に圧力をかけることを目的とした超党派法案の審議を、議会の夏休み明けとなる8日以降に本格化させることを明らかにしたのです。

 審議入りをする法案は、共和党のルビオ、民主党のカーディン両上院議員らが2016年に提出した「香港人権民主法案(香港人権・民主主義法案)」です。
 法案内容は、「一国二制度」を前提に香港を中国と区別し、関税や査証などで優遇措置を適用してきた「米・香港政策法」(1992年制定)を含めた、香港への優遇措置を毎年見直すことを明記しているのです。

 香港の自治権や人権が守られていないと判断すれば、優遇措置を撤廃する可能性もあり、経済の維持・成長に香港を必要とする習体制にとっては痛手となります。

 香港民主化デモは続いています。法案撤回は民主派が掲げる「5大要求」の一つにすぎません。習政権の夢、中国の夢が試練に直面しています。しかしその夢は、香港や台湾にとっては悪夢なのです。