コラム・週刊Blessed Life 79
心に響く言葉たち

新海 一朗(コラムニスト)

 聖書の言葉とか、仏典の言葉などは、その信者たちはもちろん、信者でない人々にも響いてくるものですが、不思議にも、精神世界というよりも経済的な物質、金銭の世界、すなわち、実業の道を歩んだ人々や、経営の在り方を探求した人々が語った言葉が痛烈に胸を打つことがあります。

 なぜか。
 恐らく、生々しい経済世界の現実の中で、生きるか死ぬかの厳しい戦いをしながら全精魂を込めて人生を送っているからだと思われます。

 例えば、明治の経済人、渋沢栄一の「できるだけ多くの人に、できるだけ多くの幸福を与えるように行動するのが、われわれの義務である」という言葉を見つけた時、渋沢が観念の言葉として言っているのではないとすぐ感じることができます。

 なぜなら、彼は哲学者でもなく神学者でもなく、実業の真っただ中に身を置く人物だからです。
 実業で生きる彼の人生の中で感じ取った言葉が、「できるだけ多くの人に、できるだけ多くの幸福を与える」であることは疑い得ない事実でしょう。経済活動で生きる生身の人間が語った(あるいは、悟った)言葉です。
 世界に冠たる経営哲学の大家、ドラッカーもまた、多くの格言的な言葉を残しています。

 例えば、「表の風に吹かれろ!」というドラッカーの言葉を見た時、“何だ、これは!”と思うはずです。

 非常に論理的な言葉を語るドラッカーが珍しく、訳の分からないことを言っていると思ったら、ドラッカーの言いたいことに気付いていないことになります。

 多くの経営者、ビジネス・リーダーたちが現実世界をよく見ることなく、デスクワークにへばりついて、計画書を書き、プレゼンテーションを作り、全て分かったつもりで仕事をしているが、それは大間違いだと、ドラッカーは言っているのです。

 トップリーダーであればあるほど、現実を見よ、街の声を聞き、好不況の現実を実感してこいと警告を発しているのです。

 鉄鋼王と呼ばれたアンドリュー・カーネギーも多くの格言を残していますが、彼は『富の福音』を著した著述家でもあります。

 「人間、優れた仕事をするためには、自分一人でやるよりも、他人の助けを借りる方が、良いものができると悟った時、その人は偉大なる成長を遂げるのである」
 何とも他人利用の楽天的な気分が濃厚に漂っている言葉です。

 こういうカーネギーだからこそ、ポジティブで楽天的な生き方ができたのでしょう。そいう生き方が、巨万の富につながっていくのです。
 「他人活用」の奥義に目覚めた時、それを「偉大な成長」と言ってのけたわけです。

 ビジネス世界に身を置いた人々の言葉は、非常に味があります。そして、いずれも立派な悟りの言葉でありながら、それぞれに個性があります。哲学書や宗教書にない言葉たちです。
 私たちはどこからでも人生の言葉を学ぶことができるのです。