世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

欧州議会選挙~理想の火は燃えているか

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は5月27日から6月2日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 天皇・皇后両陛下がトランプ大統領と会見、11回目の日米首脳会談(27日)。欧州議会選挙の結果判明(27日)。イスラエル、組閣失敗で再選挙へ(30日)。米国務省報道官、天安門事件を「虐殺行為」と指摘(30日)。日本政府、韓国産ヒラメなど検査強化(6月1日)。中国、対米関税引き上げ―報復措置で600億ドル相当に(1日)。中国国防相、台湾分離なら全犠牲払って戦うことを表明(2日)、などです。

 今回は欧州議会選挙について説明します。
 第9回欧州議会選挙が5月23日から26日まで行われました。
 欧州連合(EU)は、「国境のない」世界、戦争のない世界をつくろうという希望を掲げて発足しました。その理想が今、試練に直面しています。

 まず、欧州議会の仕組みについて説明しておきます。
 1979年に導入され、5年に一度行われてきました。欧州議会選挙法で選挙の原則の大枠のみ規定し、加盟国がそれぞれ選挙法細則を定めて選挙を行うのです。

 当選した候補者は、議会内の政治会派を結成するための交渉を行い、その上で、新欧州議会が7月2日招集されます。議会内政治会派には、親EU派として「欧州人民党(EPP)」「社会民主進歩同盟(S&D)」「欧州自由民主同盟(ALDE)」「緑の党・欧州自由連合」があります。

 そしてEU懐疑派として、「欧州保守改革(ECR)」「欧州統一左派・北方緑の左派同盟(GUE/NGL)」「自由と直接民主主義のヨーロッパ(EFDD)」「国家と自由の欧州(ENF)」などがあります。

 選挙の注目は、親EU派とEU懐疑派の動向、議席数の獲得状況に集まりました。結果は、EU懐疑派がわずかに増えたものの、ほとんど変わりませんでした。しかし、親EU派とEU離脱派内の勢力図に大きな変化がありました。

 親EU派の二大会派(EPP、S&D)が議席を大きく減らし、過半数を占めることができなくなりました。結果としてドイツ、イギリスの影響力低下は避けられません。

 EU懐疑派の政治会派では、フランスの「国民連合」やイタリアの「同盟」など、ナショナリズムを強調する政党が参加する「国家と自由の欧州(ENF)」が大きく躍進しました。特に「国民連合」はマクロン大統領の与党「共和国前進(REM)」を上回る議席を獲得したのです。

 低下し続けていた投票率も注目された点でした。今回の選挙に対するEU市民の関心は高く、前回(2014年)の42.61%を大きく上回り50.94%となっています。

 EU議会は7月2日招集後、議長や役員の選出を行いますが、安定的な議会運営が難しくなるでしょう。さらに10月に任期満了となるユンケル欧州委員長、11月に任期が満了となるトゥスク欧州大統領の後任問題が出てきます。
 イギリスの動向とともに目が離せません。