世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

米中貿易摩擦、「戦争」段階へ

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、520日~26日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 徴用工問題、政府が韓国側に「仲裁委員会」開催要請(20日)。習近平主席、劉鶴副首相と「長征」出発の地を訪問(20日)。米国防総省は、イラン情勢対応で中東地域に約1500人を増派すると発表(24日)。トランプ米大統領夫妻、令和初の国賓としての来日(25日)。米ホワイトハウス、日米で「地球規模の協力と繁栄」のパートナーシップを前進との声明発表(25日)。WHO=世界保健機関の総会で、性同一性障害を「精神障害」から除外合意(25日)、などです。

 今回は、米中摩擦の新たな段階、貿易「戦争」について説明します。
 前々回の記事で、トランプ大統領が、中国側の対応の不誠実さに怒り、制裁関税措置を発表したことを説明しましたが、米中関係は「摩擦」の段階から「戦争」の段階に入ったと言わなければなりません。

 中国共産党系の「環球時報」はウェブサイトに13日に掲載した論説で、米中貿易紛争は「人民戦争」であり、中国全体への脅威だと論じました。
 これまで中国側主要メディアは、「戦争」という表現を用いていませんでしたので、ここに習政権の新たな覚悟が示されたといっていいでしょう。

 習氏は20日、対米貿易協議の中国側代表である劉鶴副首相とともに、江西省贛州(かんしゅう)市の紅軍記念館を視察しました。そこは、1930年代、共産党軍が国民党軍の攻撃を逃れて苦難の行軍を始めた「長征」の出発地です。

 そこで習氏は、「今日の新たな長征の道のりで、中国の特色ある社会主義の勝利をつかまなければならない」と総力戦への構えを求める演説を行ったのです。

 トランプ氏が意欲を見せる6月末の大阪での20カ国・地域(G20)首脳会議で、首脳会談に応じるか否かもまだ、言質を与えていません。

 4月30日から5月1日まで北京で開かれた協議を境に、米中協議の風向きは一変しました。
 中国側の「構造改革」を求める米国は、中国の地方政府の産業補助金への制限も要求し、切り込みを強めたとの情報もあります。
 地方政府による優遇は、国家主導経済を実現するための屋台骨で、譲れない一線だったため、中国は態度を硬化させ、合意文書案から合意内容を履行する国内法の改正など多数を削除するよう求めたというのです。

 いずれにせよ、中国側の「ちゃぶ台返し」で一気に米中間の緊張が高まり、ファーウェイ排除を意図する大統領令への署名で「戦争」状態へと突入しました。

 米政権は、徐々に米中経済の分断の方向に進んでいくのではないかと思われます。