世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

米国、中国からの全輸入品に制裁関税

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、5月6日~12日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 日米首脳電話会談。安倍首相が無条件の日朝首脳会談の実現に意欲(6日)。イラン核合意、一部停止へ(8日)。北朝鮮、短距離弾道ミサイル再び発射(9日)。幼児教育・保育の無償化法成立。消費税に合わせて10月開始(10日)。米政権、対中制裁関税の引き上げ措置を発動(昨年9月の「第3弾」2000億ドル相当分)(10日)、などです。

 今回は、米政権による対中制裁関税について説明します。
 トランプ政権は5月10日、対中制裁関税「第3弾」(昨年9月に実行)対象の中国からの輸入品2000億ドル分の関税を引き上げました。10%から25%への引き上げです。

 さらにトランプ政権は5月13日、制裁関税「第4弾」の内容を公表。中国からの全輸入品が対象となり、約3000億ドル相当の製品に対して関税が引き上げられることになるのです。実際の発動は7月中旬とみられています。
 中国側も対抗措置、報復措置をとることを公言しています。まさに米中貿易戦争の様相となってきました。

 トランプ大統領はこれまで、「中国とはうまくいっている」と繰り返し、5月初めにも「歴史的な合意が間近だ」とも述べていました。
 急展開した背景に何があったのでしょうか。

 きっかけは、4月30日~5月1日と、北京で行われた米中閣僚級会議の報告をトランプ氏がライトハイザー通商代表部(USTR)代表らから詳細に聞いたことでした。
 その内容は、知的財産権の保護に関する法改正の撤回など、合意文書案の全7章に修正を加えて米国側に提示するものでした。

 昨年12月から始まった交渉で、中国側は米国が問題視する知的財産権の侵害、技術移転の強要、金融市場、為替操作などの分野で法律を改正すると約束していました。その約束を撤回する内容だったのです。
 中国側は、法改正ではなく行政・規制の変更によって合意を実行するので信頼してほしいと申し出たのですが、米国側はそれを拒否しました。

 閣僚級協議は5月9日~10日、ワシントンD.C.で行われましたが、中国側の姿勢に変わりはなく「関税引き上げ」を断行することになったのです。

 米政権による制裁関税策について、保護主義であるとの批判や覇権を守るための自国第一主義的行いとの批判がありますが、それは一面的な捉え方です。

 まず、自由貿易は公平、公正なルールに基づくことが必須の要件ですが、中国は守っていません。さらに近年米国では、中国との競争は自由民主主義の価値観を含む米社会を守るための闘いだという認識が主流になっています。

 米国の覇権が脅かされているから中国をたたいている、という「単純な」考えではなく、価値観闘争=体制選択の闘いなのです。
 これらの考えは、民主党も共有しており、米国側が妥協することは、まず、ないでしょう。