世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

スリランカテロ首謀者、日本に来ていた

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、4月22日から5月5日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 安倍首相、欧米6カ国歴訪へ(22日)。米、産業スパイで中国人ら起訴(23日)。北朝鮮の統一戦線部長が交替、金英哲氏更迭か(24日)。露朝首脳会談(25日)。日米首脳会談(26日)。スリランカ、シリセナ大統領、NTJ(ナショナル・タウヒード・ジャマート)とその分派の活動禁止(27日)。天皇陛下御代替わり(4月30日、5月1日)。米、イラン原油の全面禁輸を開始(5月2日)などです。

 今回は、4月21日に起きたスリランカ連続テロ爆破事件を取り上げます。
 この事件は世界の注目を集め、「イスラム国(IS)」との関係が確実になりました。

 事件は21日午前、コロンボなど8カ所で起き、日本人を含む250人以上が犠牲になったのです。イースターでキリスト教徒が集う教会や、外国人観光客の多い高級ホテルが狙われました。スリランカには年間4万人の日本人が観光で訪れています。

 自爆犯は男8人、女1人の9人。逮捕者は100人近くになりました。
 当局がテロに関与したと断定した組織は、「ナショナル・タウヒード・ジャマート(NTJ)」です。リーダーは東部州バティカロア出身の宗教家ザハラン・ハシム容疑者です。

 フェイスブックなどで「仏教やキリスト教徒は異端」などと訴える動画を配信していましたが、最近はISの思想を紹介していました。2017年3月、故郷から姿を消しており、南インドでIS関係者に接触した可能性も報じられています。

 IS系のアマク通信が23日、NTJがISに忠誠を誓う動画を公開しました。ISのアブバクル・バグダディ容疑者に忠誠を誓う映像で、中心に映っていた人物が首謀者ザハラン・ハシム氏とみられるのです。
 スリランカ当局は、ハシム容疑者を実行犯グループの首謀者と断定し、コロンボのシャングリラホテルの自爆テロで死亡したことを明らかにしました。

 スリランカは人口約2000万人。北海道の約80%の広さです。仏教徒が大半を占めていて70%、イスラム教徒は9.7%です。1980年代から、分離独立を求めるヒンズー教徒の過激派組織と多数派の仏教徒が主導する政府が激しく対立しました。多くの犠牲者を出しましたが、2009年には内戦が終結。これまでイスラム過激派による大規模テロは起きていませんでした。

 スリランカ当局は4月上旬、NTJがテロを計画しているとの情報をインドから得ていました。しかし、事件を防ぐことはできませんでした。インド当局は少なくとも3回、テロの可能性があるとの情報をスリランカ当局に伝えたことを明らかにしています。
 当局は、事件前、首謀者ザフラン・ハシム容疑者ら幹部の潜伏先の情報も得ていました。しかし、政権内部の対立(大統領と首相の対立)により、情報の共有がなされなかったのです。

 日本は大丈夫でしょうか。ハシム容疑者は、NTJ結成前に日本を訪れていた可能性があることも明らかになっています。2009年頃、日本のイスラム教関係者の招待で来日しているのです。もちろん過激思想に染まる前と思われます。
 オリンピックを前にして、イスラム関係者の人権を考慮しつつ、政府の慎重、かつしっかりした対応を願いたいものです。