世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

金正恩氏、後見役をロシア重視に転換?

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は4月15日から21日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 パリのノートルダム大聖堂で大規模火災(16日)。金正恩氏、新型戦術誘導兵器の発射実験を視察(17日)。イスラエル、ネタニヤフ氏が右派新政権組閣へ(17日)。ロシア大統領府、金正恩氏が4月末までにロシアを訪問することを発表(18日)。日本政府、閣議でトランプ米大統領夫妻を5月25~28日、国賓として招待することを決定(19日)。日米両政府、ワシントンで外務・防衛担当閣僚会議(2+2)を開催し、日本に対するサイバー攻撃に、日米安保第5条が適用される場合があり得ることを確認(19日)、などがありました。

 今回は、北朝鮮・金正恩党委員長のロシア訪問を取り上げます。
 ロシア大統領府は18日、プーチン大統領の招待で金正恩氏が4月末までにロシアを訪問すると発表しました。大統領府の発表では日時や訪問場所は触れられていませんが、24日にもウラジオストクで両国の首脳会談が行われる模様です。

 背景には、2月にベトナム・ハノイで行われたトランプ大統領との会談が「決裂」に終わったことが挙げられます。さらに後見役・中国は今、米中貿易戦争の渦中にあり、北朝鮮への肩入れは難しい状況です。北朝鮮は、後見役を代えるとまではいかなくとも、今後より多くをロシアに期待することになると思われます。

 そんな中で、9月20日付「毎日新聞」が、北朝鮮の経済戦略に関する「極秘情報」を入手したとして、その内容を報じました。それは、北朝鮮の経済戦略や目標を記した「国家経済発展戦略(2016〜20年)」の全容を記したものだったのですが、技術開発や貿易多角化により、年平均8%の経済成長を目標に掲げるほか、経済面での中国依存から脱するためにロシアなどとの経済関係を強化すると明記されていたのです。

 特に貿易多角化では、「中国一辺倒から脱し、対外貿易の方向をロシアと東南アジア、中東など各国へと拡大する」との目標を掲げています。中でもロシアとの貿易額は2020年には10億ドル(約1100億円)に引き上げると、ありました。韓国側統計では17年の露朝貿易額は7784万ドルですから、10倍以上を目指していることになるのです。

 金氏の4月末の訪露で、こうした点についての首脳協議がなされる可能性もありそうです。金氏が2月の米朝首脳会談でトランプ米大統領に制裁解除を強く要求し、また今月下旬にプーチン露大統領と会談する背景には、この発展戦略があるとみられるのです。

 金氏が中国を見限ったわけではないでしょう。しかし、いずれにしても経済制裁が維持されたままでは達成は困難です。
 米国の対中強硬政策が変わらない状況下での今回の金氏のロシア訪問は、大きな意味を持つことになるでしょう。