コラム・週刊Blessed Life 65
大きな壁にぶつかっている「グローバリズム」

新海 一朗(コラムニスト)

 英国のEU(欧州連合)離脱の動きは「反グローバリズム」と呼ばれるもので、EUが掲げる「グローバリズム」に反対する姿勢を示しているところから、そう呼ばれます。

 EUのグローバリズムは、「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」の自由往来が加盟国地域内で実現され、国境なき巨大地域(28カ国連合の欧州合衆国のようなもの)ができた状態を指して言われてきた言葉です。

 その象徴が共通通貨の「ユーロ」です。
 しかし、英国はEU加盟当初から、このユーロを採用せず、「ポンド」を貫きました。英国のEU離脱は2019年3月29日の時点で、本来、実現されていなければならないはずのものですが、一定の手続きが完了せずに、ごたごたともめる状態(EU離脱派をEU残留派が逆転し、議会が離脱を承認しない)で離脱が延期になっているのです。

 反グローバリズム=英国に対するグローバリズム=独仏の抵抗が一筋縄ではいかず、したたかであるということの現れでしょう。

 EUは経済先行型のグローバリズムに踊っており、加盟国の主権や、歴史、文化、加盟国間の経済格差などを十分に配慮しない傾向があるため、それが結局、加盟国内に右派を跋扈(ばっこ)させる原因になっています。

 米国のトランプ大統領が叫ぶ「アメリカ・ファースト」もまた「反グローバリズム」です。
 グローバリズムの主役としてポスト冷戦(ソ連崩壊)から現在までをひた走ったアメリカでしたが、そのアメリカが「反グローバリズム」にくら替えった最大の理由は「中国」でした。

 アメリカが仕掛けたアメリカ流のグローバリズム(金融グローバリズム)で最も大きな受益国となったのは中国です。

 グローバリズムによって中国に乗り込んだ米国企業は、中国の低賃金を利用しながら収益をたたき出しましたが、皮肉にも、米国内の白人労働者を見捨て、多くの失業者が生まれることとなり、たくさんの米国企業を倒産に追い込む一方、中国で活動した米国企業は、世界の工場として機能するメリット(低コスト効果)を利用しながら、大いに収益を得たわけです。
 しかし、気が付けば、米国の知財と技術とノウハウは全て中国に奪われ、やがて中国に世界覇権まで奪われてしまうと気付いた時点で、敢然と「反グローバリズム」を叫んだのがトランプです。

 トランプ大統領を誕生させた背景に、中国で暴れ回った米国のグローバリズムの弊害があったということです。
 結局、経済的な収益目的でつくり上げられた「経済グローバリズム」だけで動くと、皮肉にも米国自体に損害が跳ね返ってきます。それを見た瞬間、目が覚めて米国は態度を180度変えたのです。

 グローバリズムは根底から見直さなければならず、意味のあるグローバリズムを探し出す以外にないとすれば、「真正グローバリズム」とは何かの答えを出す必要があります。ただ単に「反グローバリズム」というわけにもいかないでしょう。