愛の知恵袋 59
テーブルから始まる家族の幸せ

(APTF『真の家庭』169号[2012年11月]より)

松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)

夫や子供たちと楽しく過ごせない

 中学生と小学生の二人のお子さんを持つお母さんからの相談です。

 「結婚当初はもっとなごやかだったんですが、今は夫も子供も不機嫌で、ちょっとしたことですぐ怒ります。そうすると、私もカッとして声が大きくなってしまうので、うまくいきません。どうしてこうなってしまうんだろうと、考えてみたんですが…」

 「何か思いあたることがありましたか」

 「最初は、夫や子供の性格が問題だと思っていましたが、冷静に考えてみると、そうとも言えません。私が何かを言ったとき、いつも夫や子供が怒りだすので、私の言葉に問題があるのではと思うようになりました。それでよく考えてみると、自分自身がいつも何となくイライラしていることに気がつきました」

 「では、どうしてイライラするのか、その原因を突き止めて対処すれば、改善できるかもしれませんね」

イライラの原因が意外なところに

 「ところで、お母さん、家の中はいつもスッキリしていますか」

 「えっ、…いやあ、あまり片付いていません」

 「それが気になることはありませんか」

 「もちろん気になります。夫から注意されたりするとなおさら、イラッとしますから」

 結局、よく聞いて分かったことは、このお母さんは家の中全体が雑然としているので、それを「片付けなければ、片付けなければ…」と思いつつも、できていないことがストレスになっていました。

 そのために、イライラして家族を「早く、早く」とせかしたり、細かいことを口うるさく言ってしまい、結果として、夫や子供たちと衝突してしまう…という構図が分かってきました。

 「実は、今まで何度も『片付けよう』と決めて、やろうとしたんですが、結局、中途半端に終わりました」

片付けは、まずテーブルの上から

 「では、ダイニングルームのテーブルは、スッキリと片付いていますか」

 「いいえ、いつも食事のとき邪魔になるので、端によけて片付けるんですが、私が物を置くせいか、夫も子供もいろいろな物を置くので、すぐに狭くなってきます」

 そこで私は、一つのことだけを提案しました。

 「最終的には”断捨離”精神で不要な物を全て処理して、家全体をすっきりさせるのが理想ですが、まずは、最低限の第一歩から始めましょう。家庭の中で一番大切なのが、家族が集まる”テーブル”です。まずは、そこだけでよいですから、片付けてみて下さい。毎晩、テーブルの上のものを全部なくすんです」

 「はあ、そうですか。それだったらできそうです」

 それから3か月経った頃、電話がありました。

 「先生、すごい効果です。テーブルをきれいにすると、次には周りもきれいにしたくなって、”きれいの輪”がだんだん広がっていきました。そして、私のイライラが収まったせいか、夫も子供たちも明るくなってきて、家の中がなごやかになってきました」

家族の幸せは、テーブルから始まる

 時間デザイナーとして活躍中のあらかわ菜美さんは、「テーブルをきれいにするだけで、家庭の中が劇的に変わる」と言っておられます。

 実は、かつて私自身も経験しました。仕事の性質上、机の上にすぐに資料や書類がたまってしまい、それがストレスになっていることに気がついたのです。そこで、それを全部片付けて机の上をきれいにすると、不思議なほど心がスッキリし、仕事も進みました。

 一家のみんなが集まるテーブルの上には、「よく使う」とか「取りあえず」という名目で、様々な物がたまりやすいものです。

 食器や調味料、薬や菓子類、郵便物、新聞や雑誌、チラシやレシート、子供の文具やおもちゃ…など様々ですが、中には、雑多な物がいつも端っこのほうに積み上げられているという場合もあります。

 それを見るたびに、お母さんはイライラし、帰宅してきたお父さんもムッとします。子供たちも落ち着きません。

 本当に不思議なことですが、ここをスッキリさせるだけで、お母さんのイライラが減少し、家族のみんなも顔が明るくなります。

 毎晩、テーブルの上をきれいにしておくと、翌朝、みんなが気持ちよく朝食ができます。日中は、お母さんが事務や趣味を楽しくすることもできます。子供たちが帰宅する時間には、そこにおにぎりを置いておきましょう。おやつを食べながら楽しい会話もできます。きれいなテーブルなら宿題をしたくなります。疲れて帰って来たお父さんも、くつろいで新聞を読んだりできます。そして、楽しい夕食の一家団欒(だんらん)。夜には、夫婦でお茶を飲みながら、水入らずの会話を持つことができます。

 たった一つのテーブルから、家族の穏やかな幸せが広がっていくのです。