愛の知恵袋 58
家事の手伝いを楽しくしよう

(APTF『真の家庭』168号[2012年10月]より)

松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)

息子が疎遠になってしまった

 ある60代のお母さんの相談を受けたときのことです。

 「自分は子供の育て方が、間違っていたのではないか…。最近そう思うことが多いんです」

 「どういう点でそう思われるんですか?」

 「私は、子供の教育はしっかりしてきたつもりでした。娘も息子も小学生から塾に通わせ、『子供の本分は勉強よ!』と言って育ててきました。そのお陰で、二人とも名の通った大学に合格し、良い会社に就職できました…。そこまでは良かったんですが…。今、なぜか、何とも言えない空しさを感じているんです。息子は大学に行きだしてから、休みも家に帰って来ないことが多くなりました。『遊びたい盛りだから、学生のうちはしょうがないか』と思っていましたが、就職してからは、もっと疎遠になってしまいました」

娘も離婚してしまった

 「それは寂しいですね。でも男の子の場合は、そういうケースは少なくありませんよ」

 「いえ、実は娘のほうも問題なんです。会社で張り切って仕事をしていたところまではいいんですが、結婚した後、相手の男性と衝突することが多くて、愚痴ばかり言ってくるようになりました」

 「娘さんご夫婦には、お子さんはいないんですか?」

 「いいえ、子供が一人いたんですが、結局、夫婦としてうまくやっていけず、別れてしまいました。よく考えてみれば、料理もあまりできなかったし、掃除や片付けも苦手でしたから、無理もないことかも知れませんが…」

 「そうですか。お子さんたちは家事を手伝うことはなかったんですか?」

 「ええ、私も主人も、『いいから、勉強をしなさい』といって、ほとんど家事を手伝わせたことがありませんでした」

家業・家事手伝いから得るものは大きい

 近年、このご家庭のように、子供たちに家業の手伝いや家事の手伝いをさせないで、好きに遊ばせてやったり、また、「家事より勉強」という方針の家庭が増えてきました。たしかに、一見すれば、これは子供を大事にする親の愛情に見えますが、しかし、実は非常に大切なものを失うことになるかもしれません。

 男の子で言えば、以前と違って家業を手伝うこともないので、父親の苦労やありがたみが分からない。また、家事を手伝わないので、母親の苦労や愛情も実感として感じにくい。

 家族同士の交流や助け合いの乏しい家庭で育った男性は、社会に出たとき、人間関係がうまくいかなかったり、結婚して家庭を持ったとき、夫としてのあり方や父親としての接し方がよく分からず、失敗する場合が少なくありません。知識や学歴があっても、実体験に基づいた愛情表現力や臨機応変の行動力が伴わないのです。

女の子は、ぜひ家事手伝いをしておこう

 また、女の子であれば、母親と一緒に、買い物、料理、洗濯、掃除など、家事の手伝いをきちんとしてきた女性は、社会に出ても、職場での人間関係や来客の接待などが上手にできます。さらに、結婚生活に入ったとき、家事を短時間で手際よくできるので、その分、夫に対しても子供に対しても、心に余裕を持って接することができ、家庭の中には楽しさと安らぎが生まれます。

 しかし、家事の手伝いをきちんとしたことがない女性の場合は、それらが手際よくできず、時間に追いまくられる状態になって、ストレスを抱え込みます。

 その結果、夫や子供に対して笑顔で接することができず、イライラしてきつい言葉を発してしまいがちです。結局、夫を不愉快にさせたり、子供をガミガミ叱ったりするようになって、家庭の中から”幸せの青い鳥”が飛び去ってしまいます。

家事は親子で楽しみながらやろう

 最近は、家事を”無報酬の労働”として捉えるような人たちもありますが、このような考え方では、結局、妻と夫が、「折半すべきだ」「あなたがやるべきだ」というような論争になり、不満と衝突が渦巻く家庭になって、子供にとっても居心地の悪い家となってしまいます。

 一家の暮らしを支える「仕事」も、イヤイヤやる人と、前向きに取り組む人があります。家族の健康と幸せを生み出す「家事」も、イヤイヤやるのではなく、前向きに楽しんでやれる人が賢い人と言えるでしょう。

 そのためには、家事の手伝いを親子の心情交流のチャンスと考えましょう。

 ポイントは、命令調や押しつけるような言い方ではなく、「おいしいもの、一緒につくろうか!」「お風呂の掃除、手伝ってくれる?」と、明るく優しく頼んでみることです。

 お父さんなら、息子と一緒に、楽しみながら洗車をしたり、日曜大工をしてみてはどうでしょうか。お母さんなら、娘と一緒に、楽しみながら料理をつくったり、部屋の整頓や装飾をしてみてはどうでしょう。