世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

習政権、改革派教授に圧力、許章潤氏停職へ

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は3月25日~31日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 中国改革派の教授、許章潤氏停職に(26日)。日本政府、ゴラン高原のイスラエル主権を認めず(26日)。金正恩氏、戦闘力強化を指示(26日)。2019年度予算成立。初の100兆円超(27日)。第19回統一地方選の41道府県議選と17政令市議選告示(29日)。米朝首脳会談、4月11日開催へ(29日)、などです。

 今回は中国・清華大学大学院教授の許章潤氏が停職に追い込まれたことについて説明します。

 清華大学は習近平主席の母校です。許章潤氏は清華大の法学院教授をしており、改革開放路線を肯定する知識人として知られ、2005年には優秀な若手法学者として中国法学会によって表彰されたこともあります。
 停職に至った経緯については、大学側から「問題の調査を始める」との理由で、調査終了まで授業や大学院生の募集や研究活動のほか「一切の職務」を禁じられたといいます。この程度しか分かっていません。

 許氏は昨年7月24日、民間シンクタンクのサイトに「私たちの恐れと期待」と題した論文を掲載し、話題になりました。
 論文では習氏の名指しは避けたものの、昨年3月の憲法改正で「2期10年まで」だった国家主席・副主席の任期が撤廃された点を批判しました。
 「根拠のない『スーパー元首』を生み出すものであり、来年の全人代で任期制を復活すべき」と主張。さらに「共産党メディアの『神づくり』は極限に達している。なぜこのような知的レベルの低いことが起きたのか。反省しなければならない」と痛烈に批判し、天安門事件に関しても再評価の時だと指摘したのです。

 清華大学に関しては昨年8月、1000人に及ぶ卒業生が、同大学の調査研究機関「国情研究院」の胡鞍鋼院長の辞職を求める書簡をネット上に公開したこともありました。
 胡氏は習政権のブレーンの一人とされており、「中国の国力は既に米国を上回っている」との見解を表明してきていたのです。書簡は「国家と国民をミスリードしてきた」と強く非難するものでした。

 許氏の停職処分について同大学社会学部の郭于華教授は、「法学者が憲政や民主を主張するのは本来の仕事だ。どこに問題があるのか」と、処分を批判する文書を発表しています。

 このように許氏には一定の支持基盤があります。政権の対応次第では米国をはじめとする国際社会による中国への批判が強くなる可能性もあります。
 注目しておきましょう。